生まれつき脳性まひがあり、体が自由に動かせない中で、三鼓博子さん(65)が絵本「チャッピーと眠れる魂の森」のストーリーを手掛け、8月に出版した。犬と人間の愛がテーマのこの作品には、「人を愛する純粋で無垢な思いは、すべての障害を超えてつながり、誰かを救うはず」という願いが込められている。
創作と愛犬が支えた日々
三鼓さんは15歳の頃、当時のつらい境遇をきっかけに詩を書き始めた。子どもの頃は学校に通えず、岡山市の自宅で過ごす日々だった。近くに住むいとこが「学校ごっこと称して勉強を教えてくれ、教育テレビや絵本でも漢字を学び、読み書きや簡単な算数を覚えた」という。
成長するにつれ、自分では何もできないことにいらだちや焦りを感じるようになり、周囲の視線にも苦しんだ。障害への理解が進んでいなかった時代、リハビリのための歩行訓練中に石を投げられたり、暴言を吐かれたりすることもあった。「生きていくのがつらい」と思うほどに心がむしばまれそうになったが、詩や物語の創作活動と愛犬の存在が救いとなった。
「チャッピーと眠れる魂の森」の物語
これまでに約30作品の物語を手掛けてきた三鼓さん。13年間飼っていた愛犬「ジャック」が突然家を飛び出し行方不明になった経験から、「生まれ変わって、またジャックに会いたい」と10年ほど前から温めてきたストーリーが今回の絵本だ。
絵本は、少年・健太と、健太に拾われた子犬のチャッピーを巡るファンタジー。交通事故で生死をさまよう健太のため、チャッピーが異世界で「命の女神」に自分の命を代わりにしても助けてほしいと懇願する。チャッピーの奮闘で健太は一命を取り留めるが、そこにチャッピーの姿はない。喪失感を抱えて大人になった健太の元に、人間に生まれ変わったチャッピーが現れるハッピーエンドで終わる。
支えられてきたから伝えたい思い
三鼓さんは「愛はどんな障害も乗り越え、いつかはつながっていくという希望」を絵本を通じて感じてほしいと話す。自身もつらい経験が多くあったが、「それ以上に母や周りの人からたくさんの愛をもらった」と感じている。
「死にたい」と言った時、母の静江さん(91)は怒ったり止めたりせず、ただ静かに抱きしめてくれた。現在暮らす障害者支援施設「旭川荘竜ノ口寮」(岡山市北区)では、高齢の母を思って涙する際、職員が優しく背中をなでて励ましてくれたという。絵本の出版にあたっても、知人の飯田恵美子さん(69)が歴史漫画家の磯米さん(69)に掛けあい、何度も打ち合わせを重ねて完成にこぎ着けた。
多くの支えがあって今の自分がいると語る三鼓さんは、偏見や差別に苦しむ人に向けて「愛をあきらめないで」と伝えたいと話している。なお、物語以外にも詩を300作品以上書いており、やなせたかしさんの「人間なんてさびしいね」がお気に入りだという。