中沢啓治の静かで激しい怒り…「はだしのゲン」の力を広めたい写真家の思い
中沢啓治の静かで激しい怒り…「はだしのゲン」の力を広めたい写真家の思い

写真家の大村克巳さんが、自身の作品を通して写真とアートの持つ力についてつづる連載「Sight Line」。今回は、一生忘れることのない出会いがテーマです。漫画「はだしのゲン」の作者・中沢啓治さん。亡くなる前年に触れた、原爆への静かで激しい怒り……。大村さんは「はだしのゲン」の持つ力をさらに広めるために何ができるか、考えるようになったといいます。

被爆地・神崎小学校の前で出会った中沢啓治さん

私が漫画「はだしのゲン」の作者、中沢啓治先生とお会いしたのは2011年8月5日の正午、先生が被爆した神崎小学校の前から始まるニュース番組のインタビューに立ち会った時でした。「はだしのゲン」は子供の頃に読んでいて、強烈な印象があります。その時、作者である中沢先生が翌日に行われる平和記念式典に初めて出席されることを知りました。中沢さんは静かに話されていましたが、原爆に対して激しく怒っていることが感じられ、強く心に残っています。

訃報を機に「はだしのゲン」の力を広める作業へ

翌年12月19日、中沢先生は73歳で波乱万丈の人生に幕を閉じられました。訃報に接し、何か役に立つことはできないか、「はだしのゲン」の持つ力をさらに広めることはできないかと考え始めました。後日、撮影させていただいた中沢先生の写真を整理し、中沢先生の奥様にお目にかかりました。そして承諾をいただき、先生にゆかりのある方々にも会ってお話を伺いました。「はだしのゲン」を作り上げた背景をたどる作業はとても興味深く、どんどん引き込まれていきます。

自問自答を経て上梓した「創作の真実」

ただ、そういった中で違和感のようなものが芽生えてくるのです。それは、原爆を知らない当事者でもない者が、原爆についての作品を扱っていいのか、という問いでした。自問自答しながらの作業を続け、「はだしのゲン 創作の真実」(中央公論新社)を上梓することができたのは2013年11月のことです。当時は、東日本大震災と原発事故の影響が続く状況で、聞いたこともないような言葉が世の中にあふれていました。混乱の中で何を知るべきか、それを考えるためにこの本を作らせてくれたのだと思いました。

読み継がれるべき「はだしのゲン」の力

時がたって記憶があいまいにならぬよう、決して忘れることがないよう、「はだしのゲン」は読み継がれていかなければならないと、心の底から思います。創作の真実が、「はだしのゲン」の物語の深淵にたどり着く一助となれば幸いです。