身につけている洋服のことだけでなく、美貴子は、この場所で少し目立っているのかもしれない、という自覚があった。「大連から来たお大尽様のお嬢さまなんだって……」と美貴子のことを噂する人もいた。
掃除も洗濯もできない美貴子
美貴子は年長の室長や舎監の先生にとって、このまま放ってはおけない、と思わせてしまう生徒でもあった。勉強の出来はまったく問題ないのに、掃除や洗濯がまるでできない、ちりとりを使った掃除もこの寄宿舎に入ってから初めて体験した。
「あなたはいままでどうやって生きてきたのですか!」と舎監の先生から厳しく𠮟られ、「やったことがないからできないのです」と素直に告白すると、先生は心底あきれた視線を美貴子に向けた。
正座に耐えられず嘘をつく
作法の授業時間には、長時間の正座に耐えられず、ほかの生徒のようにじっとしていることができない。時間が経つにつれ、体が左右にふらふらと揺れてしまう。大連にいたときも、母から和室で正座をするようにきつく言われていたが、短時間で逃げ出すのが常だった。
「どうしてあなたは……将来、先生になる人がそんなことでどうします!」と、作法の時間が終わるたびに、先生に呼び止められ、長い説教を聞かされた。どうしても逃げ出したいときは、「すみません先生、頭が痛くてたまらないんです」とつるりと嘘が口をついて出た。
「……それならば、部屋で横になっていなさい。仕方がないですね」とため息とともに先生がつぶやく。美貴子は「失礼します」と頭を下げて、先生の前から逃げ出した。
「廊下は走らない!」という先生の声が追いかけてくる。美貴子は心のなかでぺろりと舌を出して、早歩きで廊下の角を曲がった。
面倒を見るスエ
そんな美貴子の面倒をなんやかやとみてくれるのがスエだった。真面目、という文字を人間にすると、スエ、という人になるのだろう、と美貴子は思った。