京都市の2025年の観光客数は6279万人、宿泊客数は1659万人、観光消費額は2兆474億円に達し、いずれも過去最高を更新した。新型コロナウイルス感染症の影響から回復し、京都市の観光市場は戻りつつある。
しかし、この数字の裏側では、観光客が特定エリアに集中することで「道路の混雑や騒音」「市民の移動手段への影響」「ゴミ問題」など、オーバーツーリズムに伴う市民生活との摩擦が深刻化している。さらに、東京や北海道に比べて観光客1人当たりの消費単価が低い点や、左右されるインバウンド需要など、持続可能な観光経営に向けた課題は少なくない。
「量の拡大」から「質の向上」へ
こうした状況下で求められるのは、単なる観光客数の「量の拡大」から、持続可能性を重視した「質の向上」への転換だ。京都市観光は今「どれだけ多くの人を呼ぶか」から「どのような人に、どれだけ深く京都を楽しんでもらうか」への転換期を迎えている。
京都市長・松井孝治氏と評論家・古市憲寿氏が、京都市観光の現在地と、将来に向けた課題について語り合った。本記事は、インバウンド領域で複数の事業を展開するmov(東京都港区)が主催したカンファレンス「THE INBOUND DAY 2026」(8月7日開催)の講演「京都市のインバウンドの『現在地』と『あるべき姿』」を取材したもの。
観光客数は過去最高、京都市が次に狙う「高付加価値旅行者」
ディスカッションの進行は、mov専務取締役COO(最高執行責任者)の久保田浩史氏が務めた。
――まずは京都市の観光の現状について、データを基に教えてください。
松井市長:2025年の京都市の観光客数は6279万人、宿泊客数は1659万人、観光消費額は2兆474億円となり、いずれも過去最高を更新しました。私が市長に就任した2024年2月以降も、観光市場は順調に回復し、コロナ禍前の水準を超えています。
内訳を見ると、日本人と外国人では違いがあります。日本人観光客は約8割が日帰りで、約75%が50歳以上、訪問回数10回以上のリピーターが50%以上を占めます。一方で外国人観光客は約6割が宿泊し、滞在日数は3泊が最多です。また、40歳未満が約75%、初訪日者が約78%を占めています。韓国からの訪日客比率が高いことも特徴です。
古市氏:外国人観光客は若い層が多く、初訪日者が大多数というわけですね。彼らは韓国とは異なる日本独自の文化や食、祭り、マナーなどに関心を持って訪れています。初訪日で京都の魅力に触れた彼らを、いかにして1回限りの観光客で終わらせず、熱心な「京都ファン」に育て上げられるかが大きな鍵となります。
「ディープな魅力」を伝えられるか
――観光地の集中を避けつつ、滞在の質を高めていくためにはどのようなアプローチが考えられますか。
松井市長:初訪日者は清水寺や金閣寺、銀閣寺といった有名スポットに集中しがちで、そこでの混雑が激化しています。しかし、京都には奥深い神社の庭園や路地裏の魅力、伝統文化の体験など、多面的な魅力が存在します。特定の名所を訪れるだけでなく、京料理を極めたり、お茶事に通じたりするような「テーマ型のファン」を増やしたい。
古市氏:地域に関わる人は、大きく3つに分けて考えることができます。1つは「定住人口」で、住んでいる人です。それから「交流人口」は観光や出張など、一時的に訪れる人です。その中間が「関係人口」で、定住はしていなくても2拠点生活をするなど、地域の活動に関わるような人を指します。
私も現在は京都市に住んでいますが、かつて2拠点生活をしていた際、京料理の名店に通い詰め、文化を学びました。初訪日だけでは分からない京都の深みや、神社仏閣をはじめとする施設、文化の魅力を伝えることで、観光客という交流人口を関係人口へとつなげていくことが重要です。それが長期的には、消費単価の上昇と持続可能なまちづくりに直結すると考えます。
松井市長:月に1週間ほど京都市に滞在してリモートワークをし、地域の飲食店や商店街を利用するような、新しい暮らし方をする人もいます。
研究者や学生、クリエイターを対象とした取り組みも考えられます。市営住宅の空き住戸を活用して半年ほど滞在してもらう「クリエイティブステイ」や、海外の研究者が滞在しながら講演などを実施する「京都サバティカル」のような仕組みです。多様で魅力的な人材を引きつけていく。これは単なる観光施策を超えた「都市の在り方」としての戦略です。



