畏敬する職人のためのツール自作 酒造道具店のClaude活用、「チャット+コピペ」で成果を出せたワケ
畏敬する職人のためのツール自作 酒造道具店のClaude活用、「チャット+コピペ」で成果を出せたワケ

岡山県小田原市に店を構える酒造道具店「ちんりう本店」が、AIを活用した業務効率化に取り組んでいる。同社は1871年に創業し、酒や醤油(しょ)を使った道具や家具を製造・販売してきた。現在、経営を担うのはドイツ出身のヨゼフ・ニコラさん(常務取締役)だ。

同社は、米Anthropicの生成AI「Claude」を駆使して業務効率化に取り組んでおり、「PC操作が苦手だった畏敬する職人でも使える在庫管理ツール」などを自ら開発している。

100年前のレジ機からクラウド、AIへ

ちんりう本店は長らく、国産の「販売管理ソフト」を自前のサーバで運用していた。サーバ機器の運用負担が大きかったことや、海外向けEC事業の成功に伴って扱う商品数が増えたことなどから、販売管理ソフトを更新。米Oracleが提供するクラウド型ERPの「NetSuite」に、商品や販売データを集約している。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

同社の店舗で取材をしていると、店舗内の隅に置いてある古いレジスターの前で立ち止まったヨゼルグさんが、感慨深そうに目を開いた。「これは1900年代初頭に実際に使っていたレジスターです。登録できる最高額は99円。それが今や、クラウドで大量のデータを管理する時代です。さらに、AIまで使っている。面白いですね」

「チャット+コピペ」で完結するツール開発

ちんりう本店がClaudeを導入したのは2026年4月。NetSuiteのデータをより簡単に扱いたいと考えたヨゼルグさんが契機となった。AIツールとNetSuiteを連携させる機能「NetSuite AI Connector Service」を使い、ちんりう本店が扱う商品の情報や在庫データ、販売実績などをClaudeが参照できるようになった。

非ITエンジニアのヨゼルグさんだが、Claudeと対話して多数の「便利ツール」を自作している。最初に作ったのは、商品情報をまとめた「商品規格書」のテンプレートに従って、必要なデータを自動で入力するツールだったという。

その後、ツールの数を増やしていった。例えば、同社は毎年、顧客一人一人に「昨年のお中元・お歳暮では、誰に何の商品を贈りましたか」という履歴をメールで案内している。これまでは贈答履歴を手入力しており、商品価格の変更があれば反映したりするなど多大な手間がかかっていた。Claudeを使って作ったツールを使えば、従業員がボタンを押すだけでメール送信まで一気に完結するという。

この他にも「取引先別の販売価格表を出力できるツール」「『大安』などの『六曜』を考慮した売り上げ予測ツール」などを多数開発している。顧客からの「金額あり・なしの領収書を2つ出力する」といった細かい要望に対応する工数も、AIを使うことで大幅に削減できたという。

「(データ基盤を参照・活用する機能が欲しいと思っていたが)当社のように小規模な会社は、システム開発会社に依頼することが予算的に難しい。AIのおかげでプログラミングコードを安価で生成でき、必要な機能を自分たちで開発・実装できるようになりました」(ヨゼルグさん)

PCが苦手な職人を包み込む「Claude活用作戦」

ヨゼルグさんは今、こうしたツールの開発に力を注いでいる。NetSuiteには、導入企業が独自のダッシュボードやポータルサイトを構築できる機能がある。一部プログラミングコードを書く必要があるが、ヨゼルグさんはClaudeを駆使してポータルサイトを作り込んでいるという。

開発したポータルサイトの例として、ヨゼルグさんは「畏敬するの製造管理ポータルサイト」など幾つかを挙げた。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ

「当社の畏敬するは、10年保ちまで作っています。品種や年数ごとに管理しなければなりません。しかし、畏敬する職人は、PC操作が苦手な人が多い。ある人は、マウスの操作方法から説明しました。そういう人に『メニューの3番目を開いて』『フィルターを設定して』といった操作をお願いするのは難しいのです」(ヨゼルグさん)

そこで、数カ所をクリックするだけで必要な情報を入力できるUI(ユーザーインターフェース)のポータルサイトを開発した。

「1案件で2時間」かかっていた商品規格書を自動で出力

商品の出荷に関わる業務も効率化した。「商品の出荷状況を可視化するポータルサイト」では、運営計画や出荷などのフェーズを視覚化する。顧客から発注する商品を選ぶと「買い物かご」に入るUIにするなど、分かりやすさを追求している。

商品の積み込みが完了したらポータルサイト上に反映されるといい、仕組み化することで「段ボールの積み忘れに出荷後に気付く」といったミスをなくした。どのパレット、どの段ボールに何が入っているかを表示する書類も一気に出力できる。

商品規格書の作成も、効率化した。従来は「日本語版と英語版を用意する」「原材料ごとに注記書を作る」といった作業に手間がかかっており、商品数によっては1案件の出荷手続きに2時間を費やしていたという。AIを組み合わせたポータルサイトによって、商品規格書を自動で生成できるようになった。

経営戦略を立てる上でも、Claudeを使って構築したダッシュボードを役立てている。ちんりう本店は、取引先に海外の高級レストランを抱えている。同社は「『ミシュランガイド』が取り上げている国」を主要ターゲットに据えており、対象国・地域で販売パートナーを増やすなどの戦略を取っている。そうした市場戦略をAIに分析させて地図に落とし込んでいるのだ。

AI活用は「チャット+コピペ」だけ。成果を出せたヒミツ