惣十郎浮世始末 巻之二 第247回 木内昇 2026年3月12日
惣十郎浮世始末 巻之二 第247回 木内昇 2026/03/12

惣十郎浮世始末 巻之二 第247回 木内昇 2026年3月12日

惣十郎は、乳白色に光る童のような三好の額を見詰めながら、「そういやそうか」と力なく返答した。妙に仕事ができるため長年勤めているように錯覚していたが、三好はまだ二十歳をいくつか出たばかりの若者なのである。

五年前の事件を巡る調査

「他の同心に訊いてみましょうか。五年前ですと御奉行は遠山様か大草様ですから、その頃から勤めておられる方なら覚えがあるかもしれません」と三好が提案する。惣十郎は、吟味方の志村から頼まれた一件の経緯を、大まかに三好に伝えた。

三好は興味深そうに耳を傾け、「なんとも興味深いお話ですね。差し戻しで廻方が調べるなぞ、めったなことではございませんよ。その上、公正を期すには、そのお粂とやらが武器を造ってないことを証さねばならない。『ない』という事実を証すのは、至難の業ですからね」と指摘した。

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証拠の不確かさと筆跡の問題

惣十郎は同意し、「そこよ。仮に弓浜が、お粂の描いた下書きを持ってたとしてもよ、それがまことにお粂の描いたものだと証す術もねぇんだよな」と応じた。お粂の下書きと源次郎の覚えにある図面が一致しても、弓浜があとから描いてお粂の下書きとして出したのではないかと疑われれば、これまた終いなのである。「やっていない」という事実を証すのが、これほど難儀だとは思いも寄らなかった。

三好はさらに、「なるほど、さようにございますね。よほど字に癖がある方ならともかく、筆跡などたいていは真似られますし……」と付け加えた。そして、目をたわめてこちらを見遣りながら、「その点、服部様はよろしいですね。服部様の捕物書は、私のような新参者でも一目でそれとわかりますから」と笑みを浮かべた。鼻の穴がひくひくと動き、笑いを堪えている様子だった。

調査の継続と協力の約束

惣十郎は仏頂面で押し黙る。三好は調子に乗りすぎたと省みたのか、急に真顔になり、「なにかわかり次第、お報せいたしますね。ただし、前の御奉行の時代の一件ですから、有益な報をお伝えできるとお約束はできませんが」と殊勝に告げた。

惣十郎は、「悪いが頼む。まことのことがわからねぇのは、なにしろ気持ちが悪ぃからよ」と片手拝みをしてみせた。すると三好は、「服部様の言い条は、お役目に熱心なのだか、ただご自身のご興味なのだか、よくわかりませんね」と、つい今し方のかしこまった様子はどこへやら、呵々と笑った。

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