被爆者なき時代を前に、VR(仮想現実)などのデジタル技術を活用して、81年前の惨禍を伝える動きが増えている。開発者の中には広島や長崎とは縁の薄い人もおり、東京大院特任研究員の小松尚平さん(37)(東京都)はその一人だ。「自分のような人でも平和の重要性を広めるためにできることがある」と力を込める。
「古写真VR」で被爆の街を歩く
骨組みがむき出しになった原爆ドームがたたずみ、がれきに覆われたモノクロの広島の街を、カラーのアバター(分身)が自由に歩き回る。小松さんが2023年に開発した「古写真VR」だ。
小松さんは東京都中野区出身。大学卒業後にVRの技術者として起業し、ゲームや動画の配信を手がけた。「お金もうけのことを考え、どれだけ見られるかという数字の世界だった」
社会課題に向き合うきっかけ
起業から5年余りがたった21年春、同業の20歳代女性が突然、命を絶った。原因はわかっていない。ただ、数日前にコロナ禍での漠然とした不安について相談を受けたばかりだった。
身近な人を失い、初めて人の生死を真剣に考えた。「技術を社会課題に生かせないか」。まもなく、人工知能(AI)を活用し、被爆地の写真のカラー化などに取り組む渡辺英徳・東京大教授の研究室に入った。
被爆の実相を伝える決意
研究室が23年に日本原水爆被害者団体協議会(被団協)などと共同で展示会を開くことになった。自身と同じく原爆への知識や関心のない人にどう興味を持ってもらうか。「時間と空間を超えた体験ができるのがVRの強み」。思いついたのが、原爆投下後の白黒写真を使った「古写真VR」だった。ただ写真を見るのでなく、アバターで歩き回ることでより身近なものと受け止められると考えた。
「開発を通じて、私自身も被爆を自分ごととして考えられるようになった」。写真の場所を被爆者に解説してもらい、より臨場感を持ってもらえるような活用法をさらに模索中だ。
「史料や体験に基づかなければ、お化け屋敷のようなフィクションと同じになってしまう」。被爆地に縁がなくても、自身の強みを生かして被爆の実相を伝えていく。



