オフィスのデスクに、キャラクターのフィギュアや推しアイドルのアクリルスタンド、旅先で購入した派手なマグカップなど、業務と無関係に見える私物を置く若手社員が増えている。これに対し、管理職層やベテラン社員からは「業務に関係のないものを置くのは不真面目だ」「職場の品位が下がる」との声も上がる。しかし、心理学の研究は、こうした私物が実は働きやすさや生産性向上に寄与する可能性を示している。
心理学が示す「私物があると働きやすくなる」理由
日本メンタルアップ支援機構の代表理事である大野萌子氏によると、デスクに私物を置く行為は単なる趣味の表現ではなく、心理学的に働きやすさに寄与する可能性が高いという。その根拠として、まず「自己関連付け効果(Self-referential effect)」が挙げられる。心理学者ロジャーズらの研究で知られるこの効果では、自分に関係する対象が視界に入ると、脳が優先的に処理し、注意力や気分が回復しやすくなるとされている。
さらに、推しグッズなどの私物は、ストレス軽減やモチベーション維持に役立つ。大野氏は「推しグッズが働く上での心理的な支えになる」と指摘する。実際、自衛隊のメンタルチューニング研修でも、隊員が自身の好きなものや大切なものを身近に置くことの重要性が教えられているという。これは、過酷な環境下でも精神的な安定を保つための手法として応用されている。
世代間で「私物」の捉え方に差が
一方で、世代によって私物の捉え方には大きな差がある。ベテラン社員や管理職層は、デスクを「仕事の場」として厳格に捉え、業務に直接関係ないものは不適切と感じる傾向が強い。これは、彼らが長年培ってきた職場の規範や、効率性を重視する価値観に基づくものだ。
しかし、若手社員にとってデスクは「自分らしさ」を表現できる数少ない場所の一つであり、私物は精神的な安定や帰属意識を高める役割を果たす。大野氏は「若手とベテランのギャップを埋めるには、互いの価値観を理解し合う対話が必要」と述べる。
若手とベテランのギャップを埋める
企業はどこまで私物を許容すべきか。大野氏は、一律に禁止するのではなく、ルールを明確にした上で一定の自由を認めることが重要だと提言する。例えば、デスク上の私物は「一つのトレイに収める」「来客時には片付ける」などのガイドラインを設けることで、世代間の認識の差を調整できる。
実際、ある企業では、若手社員のデスクに置かれたぬいぐるみを巡り、課長が注意しようとしたところ、若手が「これがないと落ち着かなくて」と不安そうに告白。結局、課長は「いや、いいんだ。むしろ癒されるし」とフォローに回ったというエピソードもある。このように、私物がかえってチームの雰囲気を和らげる効果も期待できる。
心理学の知見を活用すれば、私物の許容は単なる甘えではなく、従業員のメンタルヘルスや生産性向上につながる投資と捉えられる。自衛隊の事例が示すように、メンタルチューニングの一環として、私物の持つ力を再評価する時代が来ているのかもしれない。



