フィジカルAIが変える現場、トイレ清掃の90%自動化も視野に
フィジカルAIが変える現場、トイレ清掃90%自動化も

これまでの生成AIは、テキストや画像の生成など、主にデジタル空間で活用されてきた。一方、現実世界の作業現場で人の仕事を支え、自動化を進めるには、物理的に動くAIが必要になる。そこで関心が高まっているのが、現実世界の状況を認識し、ロボットなどを通じて動作する「フィジカルAI」だ。人手不足が深刻化する製造業や物流業などで、作業の自動化や生産性向上につながると期待されている。

従来のロボットとの違い

フィジカルAIは、従来のロボットと何が違うのか。現場で活用するには、どのような準備が必要なのか。人型ロボット「Pepper」などのロボット事業を手がけるソフトバンクロボティクス(東京都港区)で、事業推進統括 FMDX事業推進統括部 統括部長を務める塚田氏が解説した。

近年、飲食店で料理を運ぶ配膳ロボットや、施設内の掃除をするロボットなど、さまざまな場所でロボットが活躍するようになった。調査会社の矢野経済(東京都中野区)によると、2025年の自動走行ロボットの累計稼働台数は約4万2200台と予測される。

こうしたロボットの多くは、あらかじめ設定された手順に沿って動く。一方、フィジカルAIは、AIがロボットを通じて周囲の状況を認識し、臨機応変に動作を変えられる点に違いがある。

「フィジカルAIは、ロボットが現実世界を見て、考えて、動いてを繰り返す。臨機応変に対応できる」(塚田氏)

例えば、工場で部品を運ぶ場合、従来のロボットは決められた経路や手順に沿って作業する。フィジカルAIを活用すれば、周囲の状況を認識し、障害物などを避けながら動作できる。状況に応じて動きを調整する点が、従来のロボットとの違いだ。

政府も後押し、日本の勝ち筋は「現場データ」

フィジカルAIの活用を後押しするため、政府も関連施策を進めている。

政府は7月21日に閣議決定した「日本成長戦略」で、17の重点産業分野に対し、2040年度までに官民合わせて370兆円超を投じる方針を示した。対象には「AI・半導体」や「宇宙」などが含まれる。政府の投資を呼び水として民間投資も促し、日本の産業競争力を高める狙いだ。

AI分野ではフィジカルAIを重点領域に位置付け、10.5兆円の投資を計画する。人手不足が深刻な製造業や物流業、建設業などで導入を進める方針だ。宇宙産業も、国際競争の激化や人手不足といった課題を抱えている。AIやロボットによる作業の自動化、生産性向上は、こうした課題を解決する手段としても期待される。

さらに、6月に改定した「AIロボティクス戦略」では、製造、物流、建設・土木など18分野を対象に、2040年までに1000万台のAIロボットを導入する目標を掲げている。世界の多用途ロボット市場で3割を超えるシェアを確保し、20兆円規模の市場獲得を目指す。

米国や中国の企業が急速に開発を進める中、日本はどこで競争力を発揮できるのか。塚田氏が強みとして挙げるのは、日本の製造現場に蓄積された技術やノウハウだ。

日本の製造現場には、長年の経験を通じて培われた知見がある。こうした知見をデータ化し、AIやロボットの開発・活用につなげることが重要だという。

トイレ清掃の「90%」を自動化

ただし、ロボットそのものの性能を高めるだけでは、現場への普及は進まない。ソフトバンクロボティクスは、現場の作業を対象的に分析し、データ化することから取り組みを始めた。トイレ清掃の「90%」を自動化する取り組みも、その一例だ。

日本が「木造データセンター」を開発する動きや、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが日本経済の復活を宣言したことなど、関連する話題も注目を集めている。国内のAIインフラ構築への投資も発表されており、フィジカルAIの普及に向けた機運は高まりつつある。