タフブックの原点:1994年、British Gasからの提案
パナソニックのタフブックは、世界で最も売れている堅牢ノートパソコンとして知られる。その第1号機「CF-25」は1996年9月に発売されたが、源流は1994年9月発売の「CF-41」にある。CF-41はタフブックブランドが付く前の製品だが、堅牢性の片鱗を備えていた。
開発を担当したのは当時の情報機器事業部。レッツノートが特別プロジェクト室から生まれたのとは異なるルーツを持つ。同事業部は海外PCメーカー向けにIBM互換機のOEMビジネスを展開しながら、自社ブランドによる海外事業拡大を模索していた。
ある日、海外営業部門にBritish Gas(英国ガス会社)から「CD-ROMドライブを内蔵したノートパソコンを作ってほしい」との提案が持ち込まれた。British Gasは複数のPCメーカーに打診したが断られ、パナソニックに白羽の矢を立てた。
British GasがCD-ROM内蔵にこだわった理由は、保守作業員が分厚い紙のマニュアルを持ち歩く負担を軽減するためだった。マニュアルを電子化しCD-ROMで現場で再生できるパソコンを求めていたが、当時はCD-ROMドライブ搭載ノートが存在せず、オフィス利用が主流だったため、過酷な現場での使用は困難と考えられていた。
しかし、海外営業部門は自社ブランドPC事業確立のため、他社が実現できない差別化を図ろうと日本の開発部門に提案。試行錯誤の結果、耐衝撃性をクリアし、キーボード部分を持ち上げて内部ドライブにCD-ROMをセットするユニークな構造を採用。世界初のCD-ROM内蔵堅牢ノート「CF-41」が完成し、British Gasから約7100台の大型受注を獲得した。
現場の衝撃:工具扱いされるノートPC
CF-41の納入後、海外営業担当者がBritish Gasの現場作業者のサービスカーに同乗した際、衝撃的な光景を目にした。CF-41の本体や液晶部分がボロボロの状態で、レンチやスパナなどの工具と一緒に扱われ、泥だらけで車に積み込まれていたのだ。日本ではケースに入れて大切に運ぶが、海外では工具と同じ扱いだった。
担当者は「高価なノートパソコンだから丁寧に使うという発想はなく、作業効率化のためにどんな環境でも工具と同じ感覚で使い込むのが海外ユーザーの常識だった」と振り返る。これに衝撃を受けると同時に、ビジネスチャンスを直感した。
当時、海外市場にはGRiDというメーカーが堅牢ノートを販売していたが、大きくかさばる割に性能が低く、現場ニーズを満たせていなかった。パナソニック担当者はこの製品を入手し、開発チームに「これを遥かに超える堅牢ノートを作ってほしい。絶対にヒットする」と提案。タフブックの開発が本格化した。
開発の3年間:耐衝撃・耐振動・防滴・防塵
開発チームは「現場で、道具として働けるパソコン」を目指し、「耐衝撃」「耐振動」「防滴」「防塵」の4条件を掲げた。特にこだわったのが耐衝撃で、ノートPCが壊れる最大原因が運搬中の落下であることに着目。70cmの高さからの落下に耐えるため、キャビネット材料をカーボン樹脂、マグネシウム合金、アルミニウム合金から選定。試験を繰り返し、比重1.8で衝撃波減衰特性に優れるマグネシウム合金を採用した。当時は樹脂製品が多く、成形難易度と歩留まりの悪さを克服して堅牢性と軽量化を両立した。
液晶部には独自の剛体構造を採用。落下時の衝撃を両面スポンジで吸収し、たわみによる破損を防ぐインターナルバンパーを搭載。HDD保護には新開発のゲル状シリコン緩衝材を使用した。耐振動では、クルマでの長距離移動時の不規則で持続的な振動に対応するため、振動周波数変化に広く対応できる保護スポンジを採用。
防塵・防滴では、オフィスでのコーヒーこぼれや屋外での突然の雨を想定。キーボード下にプレートを設け、液体が内部の重要部品に到達しない構造とした。また、高性能CPU採用にはファンが必要だが、防塵・防滴のため放熱口を開けられないという相反する課題に対し、熱発生部品を分散配置してファンレスでも安定動作を実現。液晶表面はアクリルパネルで保護し、キャビネットとの隙間をパッキンでカバー。全ポートに防水パッキンカバーを取り付けた。
デザインも重視。工具箱のように使えるハンドルを付け、キャビネットには滑り止めの凹凸を施した。こうして完成したCF-25は、10.4型TFT液晶、Pentium 100MHz CPU、840MB HDDを搭載。従来モデルの約3倍の耐衝撃性能を実現した。
米警察への浸透:銃弾に耐えた伝説
CF-25発売と同時期に、米国で警察車両にノートPCを搭載する大規模国家プロジェクトが始まる情報を入手。パナソニックは即座に専任営業チームを立ち上げ、全米2000カ所以上の警察を訪問。タフブックの堅牢性が評価され、導入が進んだ。
ある時、「銃撃戦で跳ね返った銃弾がタフブックに当たったが、それでも動作した」という噂が広まり、警察だけでなくFBIなどの政府機関にも採用が拡大。現在、北米警察では約半分の市場シェアを持つ。
ちなみに「タフブック」の名称は北米販売会社パナソニックPCカンパニーがブランディング会社と共に考案。日本では当初「PRONOTE FG(Field Gear)」と呼ばれたが、2002年に統一された。



