萬古焼、昭和の定番土鍋から進化した新デザイン「PETARI」まで
萬古焼、昭和の定番土鍋から新デザイン「PETARI」まで

風が冷たくなるにつれて、食卓に上る回数が増える鍋料理。土鍋の国内生産のおよそ8割を占めるのが、三重県四日市市周辺を産地とする萬古(ばんこ)焼だ。土に恵まれたわけではない四日市を一大産地に押し上げたのは、自由闊達な雰囲気と、「良い土はどこのものであっても取り入れる」という進取の精神だった。

異国の素材もためらわず取り入れ

萬古焼の歴史は300年ほどと、比較的浅い。しかも産地周辺の良質な土は、掘り尽くされてほとんど残っていないとされる。「だから、さまざまな土や鉱物を国内外から取り寄せ、独自に調合して陶土を作っている。地元産にこだわらず良い土があればどんどん取り入れる気風があるのです」とは、創業94年の窯元「銀峯陶器」の熊本誠太専務(33)。

例えば陶土に混ぜるジンバブエ産の鉱物、ペタライト。戦後の復興期、アフリカからの鉱物をためらわずに使い、鍋の耐熱性を上げた。全国のどの産地よりも土鍋に向く土の調合技術が進み、圧倒的なシェアを占めるに至ったという。

銀峯陶器は、土鍋をはじめとする耐熱陶器を製造しており、「墨貫入」(昭和30年発売)や「花三島」(同47年)は土鍋の代名詞ともなっている。昭和の時代にあまたの家庭のだんらんを彩り、一度は目にしたことがある人も多い定番だ。

重要工程「バリ取り」は手作業で

陶土は各地から選りすぐった数種類にペタライトを混ぜて作り、練り上げる。成形後に余分な部分を削り取り、全体の形を整える「バリ取り」の工程は、専門職人による手作業だ。「ゴオーッ、ゴオーッ」と陶土を練る機械が音を立てる作業場で、この道10年の成形職人、野田陽子さん(45)が一心不乱に「花三島」のバリ取りを行っていた。専用の小刀「ハバリ」を粘土の面に当ててすーっと引くと、薄く削り取られたバリがぽろりとこぼれ落ちた。かんな掛けに似ているが、削るのは曲面なので熟練の技がいりそうだ。

「力加減は難しいですね。リンゴの皮をむくように、遠心力を使って一気に削ります。途中で手が止まったり速度が違ったりすると面がガタガタになるし、ハバリを当てる角度が立ちすぎると、引っかかって形が変わってしまいます」

削りすぎたり、がたついたりしたら、やり直しはきかない。人の手でしかできない重要な作業だ。バリ取りが済むと、独自に調合して色出しした釉薬をかけ、温度を1200度弱に調整した巨大なトンネル窯に24時間かけて通し、焼き上げる。

「冬のもの」から年中使える道具へ

「土鍋は、調理道具でもあり、器でもある。唯一無二の存在です」と、熊本さんは言う。調理道具としては、蓄熱性が高いため、食材はやわらかくなり甘みを増す。器としては、存在感はあるのに主張しすぎず、家庭の食卓になじんで料理の邪魔をしない。使い勝手のいい道具だが、冬のものという印象が強く、春夏には棚の奥にしまい込まれてしまう。

「土鍋を365日使える道具にしたい」と、熊本さんは自ら立ち上げた会社で、土鍋であって土鍋ではない耐熱陶器のブランド「PETARI(ペタリ)」を展開中。今年9月には寸胴型の小さな鍋を発売した。土鍋ならではの高い蓄熱性と土鍋にはない現代的なデザイン性を両立させるため、職人でもある熊本さんを中心に考え抜いた。持ち手だけで10パターン以上試作したという。

「ペタリが、マルチに使える耐熱陶器という新しいカテゴリーを創出できれば、萬古焼はじり貧にならず、産地全体でより伸び伸びとものづくりができる。そんな未来を作りたい」ブランド名は、ペタライトからいただいた。