トヨタ自動車は、水素を燃料とするエンジンを搭載した新型「クラウン」のプロトタイプを公開した。同社は2024年内にこの水素エンジン車を市場に投入する方針で、カーボンニュートラル社会の実現に向けた多様なパワートレイン戦略の一環と位置づけている。
水素エンジンの仕組みと特徴
水素エンジンは、従来のガソリンエンジンの燃料噴射系や点火系を改良し、水素を燃焼させることで動力を得る。二酸化炭素(CO2)を排出しないため、実質的なカーボンフリー走行が可能となる。トヨタはこれまでに、水素エンジンを搭載した「GRヤリス」や「GRカローラ」でモータースポーツ活動を行い、技術の信頼性向上を図ってきた。
今回公開された新型クラウンは、同社の高級セダン「クラウン」の16代目モデルをベースに、水素エンジンを搭載。外観は通常のハイブリッド車とほぼ同じだが、ボディ側面に水素充填口を備える。エンジンは2.0リッター直列4気筒ターボで、最高出力は約200キロワット(272馬力)と発表されている。
販売計画と市場の反応
トヨタは、新型クラウンの水素エンジン車を2024年夏ごろから販売開始する予定だ。価格は未公表だが、既存のハイブリッド車よりも高額になる見通し。販売台数目標についても明らかにされていないが、まずは法人向けや自治体など、水素ステーションの整備が進む地域を中心に販売を展開する方針。
水素エンジン車は、燃料電池車(FCV)と比較してエンジン音や振動が従来車に近く、運転感覚に違和感がないという利点がある。一方で、水素ステーションの整備が遅れていることが普及の課題となっている。現在、日本国内の水素ステーションは約160カ所にとどまっており、トヨタは政府と連携してインフラ整備を促進する考えだ。
カーボンニュートラル戦略の中での位置づけ
トヨタは、電気自動車(EV)だけでなく、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)、水素エンジン車など、多様なパワートレインを開発し、カーボンニュートラルを目指す「マルチパスウェイ戦略」を掲げている。水素エンジン車はその一環であり、同社の豊田章男会長は「水素エンジンは、クルマ好きの心を揺さぶる存在だ」と述べ、エンスージアスト向けのニッチな市場を狙う可能性を示唆している。
また、トヨタは水素エンジン車の技術を他社にも供給する可能性を検討しており、商用車や小型船舶などへの応用も視野に入れている。水素エンジンは、内燃機関の技術やサプライチェーンを活用できるため、既存の雇用や産業基盤を維持しながら脱炭素化を進める手段として期待されている。
今後の展望
水素エンジン車の市場投入により、トヨタはEV一辺倒ではない脱炭素の選択肢を示すことになる。しかし、水素の製造コストや供給インフラの課題は依然として大きく、普及には時間がかかるとみられる。トヨタは、2025年までに水素エンジン車の生産台数を年間数千台規模に引き上げる計画で、徐々に量産効果を狙う。
一方、競合他社はEVへのシフトを加速しており、水素エンジン車の市場がどの程度拡大するかは不透明だ。トヨタの挑戦は、自動車業界の脱炭素化における一つの実験として注目される。



