東南アジアの電気自動車(EV)市場で、中国メーカーの存在感が急速に高まっている。タイでは2023年のEV新車販売台数の約80%を中国ブランドが占め、日本車メーカーを大きく引き離した。この背景には、中国政府の積極的なEV輸出戦略と、東南アジア各国のEV普及政策がある。
タイ市場における中国EVの躍進
タイ自動車工業会によると、2023年のタイ国内のEV新車販売台数は約7万6000台。このうち中国ブランドは約6万台で、シェアは約79%に達した。BYDが約3万台でトップ、続いて上海汽車(SAIC)のMGが約1万5000台、長城汽車が約1万台と続く。一方、日系メーカーのEV販売は全体の1%未満にとどまった。
タイ政府は2030年までに新車販売の30%をEVにする目標を掲げ、購入補助金や輸入関税の引き下げなど優遇策を打ち出している。これが中国EVの低価格戦略と合致し、販売拡大につながった。BYDの「アット3」は補助金適用後、約80万バーツ(約330万円)から購入可能で、ガソリン車と競合する価格帯を実現している。
インドネシア・マレーシアでも中国勢が攻勢
インドネシアでも中国EVの販売が伸びている。2023年のEV販売台数は約1万7000台で、このうち中国ブランドが約1万2000台(シェア約71%)を占めた。五菱汽車(Wuling)が約8000台でトップ、続いて奇瑞汽車(Chery)やBYDが台数を伸ばしている。インドネシア政府はニッケル資源を活用したEVバッテリー生産を推進しており、中国企業の投資も活発だ。
マレーシアでは、BYDが2022年に現地販売を開始し、2023年には約5000台を販売。マレーシア政府はEV購入に対する免税措置を導入しており、中国EVの価格競争力を後押ししている。
日本車メーカーの苦戦と巻き返し戦略
日本車メーカーは東南アジア市場で長年高いシェアを誇ってきたが、EV分野では出遅れている。トヨタはタイでEV「bZ4X」を販売するが、価格は約180万バーツ(約740万円)と中国勢の倍以上。日産は「リーフ」を販売するが販売台数は限定的だ。ホンダは2024年にEV「e:N1」を投入予定だが、現地生産は2025年以降となる見通し。
トヨタの豊田章男会長は「東南アジアでは多様な電動化技術が必要」と述べ、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)も含めた戦略を強調する。しかし、中国EVの低価格攻勢に押され、HVの優位性も揺らぎつつある。
今後の展望と課題
東南アジアのEV市場は今後も拡大が見込まれる。調査会社マークラインズによると、2030年には東南アジア全体のEV販売台数が約100万台に達する可能性がある。中国勢はさらなる現地生産拡大を計画しており、BYDはタイやインドネシアでの工場建設を進めている。
一方で、充電インフラの整備や電力供給の安定性が課題だ。タイでは急速充電器が約2000基とまだ少なく、普及の障壁となっている。また、中国EVへの過度な依存を懸念する声もあり、各国政府は日本や韓国、欧米メーカーの誘致にも力を入れている。
東南アジア市場でのEV競争は激化しており、日本車メーカーの巻き返しが焦点となる。



