新幹線「Supreme Class」導入の裏側、輸送力維持と選択肢の多様化を追求
新幹線「Supreme Class」導入の裏側、輸送力維持と多様化追求

10月1日から、東海道・山陽新幹線で「Supreme Class」の運行が始まった。23年ぶりとなる完全個室の復活に、SNSでは「凄すぎる…! 乗りたい…」「控えめに言って最高の空間」といった喜びや期待の声が上がる一方、「東京〜大阪で4.2万は高いな…」「指定席やグリーン車はそのぶん減るの?」といった懸念も見られる。JR東海に話を聞くと、導入の意図や魅力、そして輸送力を支えてきたこれまでの努力が見えてきた。

「Supreme Class」とは? 個室でプライベート感と上質性を両立

「Supreme Class」は、これまで新幹線で最も上質だったグリーン車のさらに上を行くラグジュアリーな座席だ。個室内の空調や車内放送の音量を自由に調節できるほか、ウェルカムサービスも用意される。

10月1日からは、1日あたり上下合わせて12本程度で個室タイプのCabin(キャビン)の運行が始まり、来年度からは半個室タイプのSeat(シート)が登場する予定だ。現在発表されているCabinの価格は、東京・新大阪間で42,100円(※大人片道1名あたり・「のぞみ」・通常期利用・10号車・エクスプレス予約の場合)。同区間の「のぞみ」自由席は13,870円のため、約3倍の設定となる。

SNSではサービス開始前から期待の声が目立っており、「これは快適すぎて、乗車中の時間が溶ける」「一生に一度は乗ってみたい」「ついにグリーン車の上が出たか──試しに体験してみたい」「個室っていうのが、落ち着けていいね」といった声が寄せられていた。JR東海東京広報室の担当者は、導入の背景にある乗客ニーズの変化をこう説明する。

「従来、東海道新幹線はビジネス利用が多かったのですが、コロナ禍以降、インバウンドのお客様も含めてレジャー目的のご利用割合が高まるといった変化がありました。生活様式や働き方の変化により多様化するお客様のニーズに、より一層お応えすべく、新幹線の新たな座席のあり方の検討を進めてきました。そうした中、目的の変化に伴い、移動時間を快適にお過ごしいただけるグリーン車よりも、さらに上質な設備・サービスを求める声があったことから、『プライベート感と上質性』を兼ね備えた上級クラス座席を導入することとしました」

マナー問題への対策? 個室がもたらす快適性

新幹線では、車内環境の快適性が周囲に左右されやすい。SNSでもマナーをめぐるトラブルや、「指定席なのに譲ることを求められた」「グリーン車なのに周囲の音が気になる」といった投稿が話題になることがある。「弁当の匂いが気になる」「子連れだと周りに気を使って疲れてしまう」といった悩みを抱える人も少なくない。

JR東海はマナー対策として個室を設置したわけではないが、個室タイプのCabinは遮音性に優れ、周囲を気にせず過ごせる点が大きな魅力だ。さらに、幼児は大人1名につき膝上であれば無料というルールは「Supreme Class」でも適用されるため、小さな子ども連れの旅行でも周囲への気兼ねなく利用できる。

「周りの目が気になるという理由で別の交通手段をご利用されていた方も、新幹線を利用しやすくなると考えています。お子様連れの方も含め、周囲を気にせずに車内でくつろぎたいというご要望をお持ちの方のご利用を想定しております」(JR東海担当者/以下同)

一般席は減るのか? 輸送力維持の工夫

「豪華な個室を作ると一般席が減るのでは」「これまでの便利な設備がなくなり、不便になるのでは」という疑問に対し、JR東海は「Cabinは業務用スペースを活用して設置しています。お客様がご利用いただく座席数を減らすことなく設置していますので、ご安心ください」と答える。

一方、今後登場する半個室タイプのSeatについては、グリーン車20席分のスペースをSeat6席分に改修して設置するという。グリーン車の座席は少なくなるが、「Supreme Class」に移行する人も想定されるため、大きな混乱は生じにくいとみられる。

JR東海としても、全体の輸送力を落とさず、多くの乗客を受け入れる体制を保つことが大前提だ。「普通車のお客様も含めて、乗車したいときに乗車できる列車本数を確保することが、お客様の利便性向上にとっても弊社の収益性向上にとっても重要です」と話す。

高価格帯導入の裏にある「選択肢の多様化」という戦略

東海道新幹線は開業当時、今よりはるかに少ない本数で運行していた。そこから列車本数や座席数を可能な限り増やし、多くの輸送に応えることで成長してきた歴史がある。今年に入ってご利用の多い一部時間帯に「のぞみ」を1時間に最大13本運行できる体制を整えるなど、大量輸送の維持・強化に努めてきた。その結果、コロナ禍など一時的な変動を除いて、利用者数・運行本数ともに右肩上がりに推移し、第1四半期末時点では過去最大の輸送量を記録している。

こうしたなかでの新サービスの導入について、JR東海は「変化というよりも選択肢の多様化」だと説明する。

「繁忙期に多くの列車で『×』(空席なし)となってしまうなど、ご利用いただけないお客様が多く出てしまうのは、お客様にご不便をおかけすることになりますし、弊社としても機会損失です。こうした背景から、これまで「のぞみ」を1時間に最大13本運転するダイヤの導入に見られるような輸送力の増強に努めてきました。それに加えて、生活様式や働き方の変化により多様化するお客様のニーズにより一層お応えすべく、新幹線の新たな座席のあり方を検討し、その1つとして『Supreme Class』を新設したのです。上質なプライベート空間を楽しみたい時には『Supreme Class』を、普段のお仕事や気軽な移動には普通車をお選びいただくなど、シーンに応じて使い分ける方もいらっしゃるかもしれません。これまで通りの高速・高頻度がもたらす利便性を維持しながら、多様化するニーズにお応えできる東海道新幹線を目指しています」

10月にスタートしたCabinは1編成あたり2部屋(2室)のみで、運行編成数も当面は6編成(1日あたり上下合わせて12本程度)に限られている。「サービス開始時は編成数が少ないため『予約が取りにくい』と感じられるかもしれません。ですが、2028年度末までには38編成(JR東海が保有する新幹線全体の約3割)まで拡大する計画です。できるだけ多くのお客様にご利用いただけるよう順次体制を整えてまいります」

さらに、大型連休など混雑期についても、「臨時列車を走らせるなどして輸送力を確保する」。従来の普通車・グリーン車のみならず「Supreme Class」においても、「利用したい人が不便なく利用できる状態」を追求していくという。

JR東海が最優先課題として取り組んできた「輸送力の確保」。「Supreme Class」の導入は、普通車の座席を犠牲にした高級化ではなく、ご利用ニーズに合わせた輸送力を充実させてきたからこそ実現した「設備・サービスの進化」と言える。普通車やグリーン車という従来の選択肢を守りつつ、新たな移動体験として加わった「Supreme Class」。「選択肢の多様化」を掲げる東海道新幹線が、今後どのように移動の自由度と価値を高めていくのか注目したい。