「DXを進める原動力は技術ではなく、好奇心と想像力だ」――。元デジタル庁統括官である庄上浩司氏はそう断言する。
人口減少が続く日本では、テクノロジーを駆使して生産性を高め、必要なサービスを維持していくことが今後ますます求められる。人口減少の影響が大きい地域社会ではなおさらだ。
では、地域社会の持続可能性を高めるために、DXをどう進めればいいのか。そのヒントは、最新技術の導入そのものではなく、さまざまなプレーヤーを巻き込み、既存の仕組みを変えていくことにある。
庄上氏が語る「好奇心と想像力」を原動力に、地域課題の解決に挑む自治体や事業者の事例から、DXを前に進めるための条件を探る。
DXの壁は「技術不足」ではない
デジタル化とDXの違いは、単なるツールの導入にとどまらず、縦割り組織の根源を越えてデジタル基盤を共有し、実際の業務やサービスに生かせるかどうかだと庄上氏は話す。
DXの壁は、必ずしも技術不足にあるのではない。DXの真の敵は組織の「縦割り」だという。新たにDXを進めようとすると、「なぜあの部署と組むのか」「面倒なことに巻き込まれないか」といった反対意見が出てくる。
「理解が得られないのを嘆いても状況は変わらない。重要なのは、できない理由を探す組織風土を恐れるのではなく、関係者の好奇心や想像力を刺激し『それをやったら、なんか面白そうだ』と共感してもらうことだ」
DXを成功に導くには、周囲を巻き込みながら変化を生み出す推進役の存在が重要だという。
人口減少で変わる「需要と供給」
地域社会について「人口が減少すると、デジタル化が必要になる」と庄上氏。人口が減れば、従来と同じ人手や設備を維持することが難しくなり、限られた資源でサービスを提供する仕組みが求められるからだ。
人口が増加していた時代は、事業者が用意した「供給」に利用者(需要)が合わせる「供給が需要をけん引する」モデルが成り立っていた。例えば路線バスなら、決められた時刻表通りに走らせていれば、それに合わせて乗客が集まっていた。
しかし、人口が減る時代には、乗客の「需要」に応じて事業者が「供給」の形を変えるモデルへの転換が不可欠になる。人口が減った地域で従来通りの時刻表で路線バスを走らせても、1台当たりの乗客数が減り、赤字が膨らむだけだからだ。かといって、運行本数を極端に減らしたり、なくしたりすれば地域住民の移動手段が途絶えてしまう。
この問題に向き合ったのが長野県白馬村だ。同村では昼間の路線バスをAI乗合オンデマンド交通「のらざあ」にシフトした。
これは、予約状況に応じて運行ルートや乗車時刻を柔軟に設定する、路線バスとタクシーの中間にあるような運送サービスだ。利用者はアプリまたは専用コールセンターへの電話で乗車を予約できる。アプリで乗車場所と降車場所を入力して予約すると、アプリが近くの「仮想バス停」へ案内する。
結果として、公共交通の利用者数は2018年の8万人から2023年には14万人へ増加し、市民1人当たりの補助額は3分の1にまで減少した。
従来であれば「前日まで」など、一定の時間を設けて利用者に「いつ、どこからどこへ行きたいか」を聞き、事前に配車計画を立てる必要があった。AIを活用した配車・ルート最適化技術の進化により、直前の予約にも対応しながら、効率的な運行ルートを組めるようになっている。
こうしたAIやデータを活用した取り組みは交通に限らず、医師不足に悩む地域医療の現場や、教師不足に直面する教育現場など、住民の生活に必要なさまざまなサービスの維持に活用できる可能性があるという。
白馬高校のタクシーが変えた「移動」の仕組み
長野県白馬高校の事例は、異なる事業者が競争関係を超えて連携し、地域全体の課題を解決しているという点で示唆に富む。
白馬高校ではインバウンド客の急増により、宿泊施設では食事を提供せず、宿泊と食事の場所を分ける「素泊まり」が進んだ。その結果、夕食時にはタクシーを求める客でホテルのカウンターに列ができるといった新たな問題に直面した。
これに対し、競合であるタクシー会社5社が共同で予約管理システムを導入した。配車のデジタル化により、ホテルへの問い合わせの混雑は収まった。しかし、片道1500円程度の個別送迎では収益性が悪く、別の営業区域から応援車両を呼べば呼ぶほど赤字が膨らむ構造になっていた。
そこで、ホテルから各飲食店への「1対1」の個別送迎をやめ、スノーピークやスターバックスなどが出店する施設「LAND STATION HAKUBA」を「降り場」に設定。観光客に立ち寄り先として見せることで目的地を集約し、同じ場所に向かう乗客の相乗りを促進した。
デジタル化による配車効率化に加え、目的地そのものを集約する仕組みに変えたことで、1台当たりの乗客数が増え、収益性も大幅に改善した。さらに、スキー教室を終えた高校生が一斉に移動する時間帯や、社会福祉施設の送迎などにも活用することで、教育や社会福祉など、異なる分野を巻き込んだ取り組みにも発展しているという。
DXは「一気に変えない」、小さな成功から仲間を増やす
白馬高校の事例は、DXを一気に大規模展開するのではなく、目の前の課題を起点に関係者を少しずつ巻き込んでいく重要性を示している。庄上氏は「DXとは徐々に周囲を巻き込んでいくもの」だと話す。
最初から多くの組織を巻き込むような大規模な計画を立ててしまうと、「事態が起きたら誰が会議で答弁するのか」「予算はここの管轄から出すのか」といった、縦割り組織ならではの責任や所管を巡る議論に関わり、プロジェクト自体が頓挫しやすい。小さな成功体験を積み重ね、面白がってくれる仲間を少しずつ増やしていくアプローチが現実的だ。
「縦割り組織を超えたデジタル基盤が整い、そこにAIが加わると大きな力を発揮する。そうした取り組みが各地で生まれるような時代を目指していきたい」



