ChatGPTやGeminiといった生成AIは、消費者にとって新たな商品発見チャネルとなり、ECにおける購買体験を変えつつある。販売チャネルの多様化に伴い、チャネルごとに管理画面が分かれたり、在庫データを別々に管理したりするなど、運用リソースの逼迫とデータのサイロ化が深刻になっている。AIという新しい販売チャネルにどう対応すべきか、判断を迫られている担当者は多いだろう。
AIに発見されない企業は「存在しない」のと同じ
このような状況を解決するために、複数チャネルを単一基盤で管理できる環境の整備を進めるのがShopifyだ。同社が2026年6月に発表した大規模アップデートの狙いと、AI時代にEC事業者に求められる発想の転換について、Shopify Japanカントリーマネージャーの𠮷場道生氏に聞いた。
販売チャネルの多様化は、ここ数年で一気に加速した。「TikTok Shop」のようなライブコマース、「Roblox」に代表されるゲーム・メタバース空間、生成AIとの会話まで「売り場」になった。𠮷場氏は、EC運営企業の課題をこう分析する。
「チャネルが増えるほど管理対象や画面が増えて、全チャネルで一貫したブランド体験を保つのが困難になります。特にAIチャネルは商品の表示状況が見えにくく、増え続けるチャネルに手作業で対応する体力は多くの企業にはありません」
対応の遅れは、機会損失に直結する。Shopifyの調べによると、AI経由の訪問が購入に至る確率は従来チャネルよりも50%高く、平均注文単価も14%高い。AI販売への対応が遅れると、急成長しているチャネルを逃してしまうことになる。
「一番のリスクは、AIに発見されないことです。AIが読める形で商品データが整っていなければ、そもそも推奨補償に乗らず、存在しないのと同じになってしまいます。競合他社が先に運用を自動化したら、スピードやコスト構造でも差が開きます。一番良くないのは『様子を見る』ことです」
AI上の「売り場」を一つの管理画面で俯瞰する
こうした課題を解決するために同社が発表したのが、大規模アップデート「Shopify Spring '26 Edition:Everywhere」だ。その中核が「Agentic Storefronts」(AI販売チャネル管理機能)である。ChatGPT、Gemini、Google AI Mode、Microsoft Copilot(以下、Copilot)、Shopifyの「Shopアプリ」といった複数のAIチャネルを横断して商品を管理・販売し、チャネル別の注文や売り上げ、コンバージョンをShopifyの管理画面で一覧できる。
「どのAIチャネルが最も売り上げに貢献しているのか一目で分かりますし、配信するチャネルの選択も1箇所で管理して最適化できます。商品が生成AIに発見されやすい状態をつくれます」
「Search Intelligence」(AI検索分析機能)は、商品がどのようなAI検索クエリで登場したか、検索結果の上位に入れているか、取りこぼしているクエリがないかを可視化する。検索結果に表示されているのに売れていない商品に対しては、AIアシスタント「Sidekick」が商品タイトルへの仕様追記や説明文の修正といった改善案を示す。AIとの会話で推奨された見え方を測定して改善するループを回せるようになる、AI検索最適化の仕組みと言える。
広告運用も接客も「民主化」するAI
今回の大規模アップデートで注目したいキーワードが「民主化」だ。専門人材や外部パートナーを抱える大企業の専売とも言えた高度な運用に、企業規模を問わず手が届くようになる。ここでは注目の機能を3つ紹介する。
第一が、EC運営のために設計されたAIアシスタントSidekickの拡張だ。「Sidekick Pulse」(パーソナライズ提案機能)がオフラインのデータ処理基盤でストアデータとユーザーデータを分析して、事業者が次に打つべき施策を提案する。「Loop」や「Klaviyo」をはじめとする外部アプリとも連携可能で、データを取得してアクションを実行できる。
「Sidekickはこれまで、『聞けば答える』役割でした。今回のアップデートによって、聞く前に先回りして教えてくれて、実行まで手伝ってくれる役割に変わっています」と𠮷場氏は語る。
第二が、広告運用を自動化する「Campaign Autopilot」(キャンペーン自動運用機能)だ。デジタル広告代理店に相当する機能で、設定した予算と運用ルールの範囲内で有料およびオーガニックのキャンペーンを自動運用する。今後は「ChatGPT Ads」や「Microsoft Advertising」、「Snapchat」内の広告への対応も予定している。Campaign Autopilotは現在早期アクセス段階で、米国から順次展開して日本にも提供する予定だ。
第三が、接客を担うAIショッピングアシスタント「Storefront Agent」だ。在庫や商品仕様、返品・配送ポリシーに関する質問から答えて商品を提案し、過去の注文への問い合わせにも対応する。ブランドボイス(ブランドのトーン+マナー)は事業者側が制御できるので、ブランドのイメージに合ったトーンで接客と会話できる。日本語対応は段階的に行われる予定だ。
「優秀な販売員の獲得は難しく、大企業が有利な状況が続いていました。Storefront Agentを利用することで、企業規模を問わず、すべてのブランドが24時間365日働く優秀な『販売員』を持てるようになります」
単一基盤だからデータが断片化しない
これらの新機能に共通するのは、店舗、ECサイト、SNS、AIの販売管理を一つの基盤で扱うShopifyの設計思想だ。複数のツールを組み合わせる構成ではメンテナンスが二重三重になり、障害時には原因の切り分けに追われる。単一基盤のアドバンテージを、𠮷場氏はこう説明する。
「ツールを組み合わせると連携の手間がかかる上、データが断片化してしまいます。Shopifyは商品情報、在庫、注文、決済が一つにつながっています。AIのような新しいチャネルを追加してもShopify内でデータが同期されるので、情報を別途に登録し直す手間がかかりません。ブランド体験の一貫性、新しいチャネルへの対応スピード、TCO(総所有コスト)の低さで差が出ます」
販売の領域を広げるアップデートも続いている。対面販売やライブコマースに生かせるモバイル専用機能「Quick Sale」(かんたん販売機能)を世界展開したほか、環境コマース向けに関税込み総額の現地通貨表示や現地通貨対応のギフトカードなどを追加した。関税環境が複雑化する中で、専門チームを持たない事業者でも環境販売のハードルを下げられる。
ChatGPTで商品が売れる仕組み
販売の領域を広げる取り組みは、店舗やモバイル、環境に留まらない。AIチャネルとの連携も同じ発想の延長線上にある。なぜShopifyは幅広いAIプラットフォームと連携できるのか。鍵を握るのが、Googleと共同開発したオープンスタンダード「Universal Commerce Protocol」(UCP)だ。
「UCPは、AIエージェント経由の商取引を標準化する共通言語です。GeminiやCopilotといったさまざまなAIが、企業やプラットフォームの垣根を越えて同じ話し方でやりとりできる仕組みです。これによって、事業者はチャネルごとの個別対応が不要になります」
UCPはWalmartやVISAなどが支持しており、AI経由の商取引における共通規格になりつつある。米国ではGeminiとの会話の中で商品をカートに入れると、そのまま決済まで完結できる。ShopifyはUCPとは別の独自プロトコル(ACP)を展開するOpenAIとも連携しており、ChatGPT上の販売にも対応している。これらも日本への展開が見込まれる。
これらの連携を支えるデータ基盤が「Shopify Catalog API」だ。数十万の事業者が扱う数億点の商品をAIが読める構造化データとして標準化したもので、一度登録すればAIの検索対象になる。価格や在庫は常に最新の一次情報として参照されるため、AIごとに情報がずれることもない。Shopifyの調べによると、Shopify Catalog API経由で情報を提供するとAIがWebスクレイピングで拾った商品情報よりもコンバージョン率が2倍になるというデータもある。
Shopifyに出店すれば、商品はカタログに自動で登録されるので、事業者側が特別な作業をする必要はない。エージェンティックコマースの仕組みを理解していなくても、これまで通りShopifyを利用するだけでAIレディなデータを整備できる。
開発者向けには「Shopify AI Toolkit」と「DevMCP」を提供している。Shopify AI Toolkitを使えば使い慣れたAI開発ツールと対話するだけでストアの構築やデータ取得、設定の更新ができる。DevMCPの利用によってトークン使用コストが最大20%削減されると見込まれており、AI駆動開発を低コストで実践できる。
新しい指標は「AIに発見されているか」
国内の成果も目立つ。「DAISO」を展開する大創産業はB2BとB2CのECサイトをShopifyで運用する体制を構築してオペレーションを一元化し、売り上げを約4倍、トラフィックを約2.5倍に増加させた。「生協の宅配」は法人向けECサイトをShopifyで刷新して未回収債権をゼロにした。家具販売の「KANADEMONO」は法人会員向けストアをわずか3カ月で開設してB2Bの接客数を約10倍に拡大した。
こうした基盤の上で、企業には何が求められるのか。𠮷場氏はKPIの転換を挙げる。自社がAIに発見され、推奨されているか、それを自社で制御できているか。新しい指標で測ることが出発点になるという。
「AIを便利なツールとして使う段階は終わり、事業の前提として組み込む段階に移っています。AIに任せる範囲を決めて、人は戦略を立てること、より良いブランドや商品、ストーリーを作ることに集中すべきです。まず自社がAIにどう見えているのかを測ることから始めて、AIを道具ではなく相棒として使い倒してください。それができる企業が、今後伸びていくでしょう」



