米国が今夏、カナダ、メキシコと共催したサッカーワールドカップ(W杯)北中米大会。世界の人々が集まるスポーツの祭典でありながら、一部の人は米国から排除された。トランプ政権の下、国際サッカー連盟(FIFA)のスローガン「サッカーは世界を結ぶ(Football Unites the World)」との矛盾を多く抱えた大会を振り返る。
ビザ拒否で観戦を断念したパラグアイ人ファン
米国での開幕試合となった6月12日夜の米国―パラグアイ戦。パラグアイ人のマルコ・オルティスさん(34)はその試合を、首都アスンシオンの酒場のテレビで見た。パラグアイの出場は、日本との大接戦を制してベスト8に進んだ2010年大会以来、16年ぶり。本当は自分も、米ロサンゼルスのスタジアムで声援を送っているはずだった。
公務員のオルティスさんは大のサッカー好き。パラグアイ代表が米国で戦う3試合のセットチケットを購入し、観戦を心待ちにしていた。航空券なども含めて妻と2人で数千ドルを支払ったという。
暗雲が立ちこめたのは開幕の約2週間前だった。パラグアイ人が観光で米国に行くには、米国大使館で面接を受け、ビザを取得する必要がある。だが、オルティスさんは面談後、大使館から申請を却下したと伝えられた。トランプ政権下で南米からの入国のハードルが高くなっていた。
「W杯チケットのほかに航空券も用意していた。犯罪歴があるわけでもないのに何の説明もなかった」。酒場で応援したパラグアイ代表は1―4で米国に敗れた。「悔しくてずいぶん酔ってしまった。本当に悲しくて残念です」
チケットは転売せざるを得なかった。「同じような目に遭った知人がたくさんいる。全体では、かなりの数なのではないか」。オルティスさんはそう振り返った。
強硬な移民政策がW杯にも影響
ビザ発給の厳格化や入国審査の強化は、米国第一主義のもとでトランプ大統領が看板政策として進めてきた強硬な移民政策の一つだ。こうした措置はW杯期間中も続けられ、チケットを事前に購入していた人たちにも影響が出た。
隣国アルゼンチンでも多くのサッカーファンが米国ビザの発給を受けられなかった。報道によると、その多さから、拒否された書類を証拠として提示すれば、先着100人に試合観戦用に無料でテレビをプレゼントする地元企業のキャンペーンもあったという。
全面的な入国拒否の対象となった国もある。イランとハイチはW杯の出場国だったにもかかわらず、観光客向けのビザ発給が停止された。イランとは、米国が2月末に攻撃を始めてから戦闘状態が続いており、52年ぶりの歴史的な出場となったハイチは、米国内の不法移民の多さが問題視された。カボベルデやコートジボワールのように開催直前まで高い保証金が求められた国もあった。
こうした対応は選手や審判にも影響を及ぼしたとみられる。