愛知・名古屋アジア大会は3日、ビーチバレーボール男子の3位決定戦が行われ、日本の水町泰杜、黒沢孝太組(トヨタ自動車)がタイのペアに2―1(21―18、17―21、15―12)で競り勝ち、アジア大会の日本男子では16年ぶりの表彰台となる銅メダルを獲得した。インドアとの「二刀流」で注目を集める水町がビーチで成し遂げた快挙に、今後のさらなる活躍への期待が膨らむ。
終盤の逆転劇で劇的勝利
絶体絶命かに思われた3位決定戦終盤、日本の2人が流れをひっくり返した。セットカウント1―1で迎えた第3セット、同点の場面からミスなどで一気に失点を重ねて一時は6―10まで追い込まれた。タイムアウトを取る中で「孝太や青木(晋平)コーチがポジティブな言葉を掛けてくれたので、(勝利まで)あと10点だと思って自分を鼓舞した」と水町。疲労のたまった足を気持ちで動かしてコートを駆け回り、最後は黒沢のブロックで軌道が変わったボールを豪快なダイレクトアタックで打ち込み、劇的な勝利を飾った。
試合後は会場を一周しながら観客をあおって大歓声を浴び、水町は「欧州ではビーチバレーってこんな感じなので、勝ったらやろうと決めていた」とにやり。黒沢も「第3セットで追い上げている時は今までに体験したことがないような歓声をもらって、お客さんの沸き方も最高だった」と笑顔を見せた。
「二刀流」で注目される理由
日本勢では久々の快挙を達成した水町・黒沢ペアが注目を集めている要因はもう一つある。水町がインドアとの「二刀流」でビーチに挑戦しているからだ。
水町は2016年の熊本地震で、当時在学中だった鎮西高校の体育館が被害を受け、屋外での練習やプレーを余儀なくされた経験がある。このことがきっかけで、同じ屋外競技のビーチバレーに興味を持ったという。日本人のペアと組んだのは今季が初めてだが、今年の全日本選手権を制した上に今回のアジア大会では銅メダルと、実力を結果で証明した形になった。
もちろん、インドアでの実績も折り紙付きだ。SVリーグではウルフドッグス名古屋に所属し、2024~25年シーズンの最優秀新人賞を受賞。25年度にはインドアの日本代表登録メンバーにも選出されている。過去にもインドアの代表を経験してからビーチに転向した選手は複数いるものの、ここまでハイレベルな二刀流を並行してこなしている選手は見当たらない。
五輪への道と本人の胸の内
日本バレーボール協会ビーチバレーボールグループの川合庶シニアダイレクターは、水町について「バレー自体のレベルが高くて、それがそのままビーチでもできる。本当にビーチに向いている」と太鼓判を押す。水町自身はバレー選手としては小柄な181cmの身長だが、川合シニアダイレクターが引き合いに出したのは1996年アトランタ五輪で銅メダルを獲得したマーク・ヒース(カナダ)が184cmだったこと。「あの身長でもオリンピックでメダルを取った選手がいる。そしてバレーの技術も身体能力も、ヒースより桁違いにレベルが高い」とポテンシャルを絶賛する。
アジア大会の銅メダルをステップとして2年後のロサンゼルス五輪出場への期待も高まるが、一方で現在の「二刀流」のままではビーチの五輪出場権を獲得するのは難しいとの指摘もある。ビーチバレーのロス五輪出場権を獲得するには、アジア選手権や世界選手権での優勝、五輪ランキングの上位14チームに入る、本番直前の28年春~夏に開催される五輪予選シリーズ3大会のいずれかで優勝――という複数のルートがある。
どの方法で五輪への道を目指すにせよ、前提となっているのが世界各地で通年開催される「ビーチ・プロツアー」の一定ランク以上の大会や世界選手権への規定出場回数をクリアすること。また、そもそもビーチ・プロツアーの上位大会へ出場するにもポイントを取る必要がある。このため、二刀流の水町は、インドアでプレーしている期間にビーチのポイントを稼ぐことができない点が課題となる。
川合シニアダイレクターは「もしビーチで次の五輪を目指すのであれば、どこかで1回インドアをやめないと、今のやり方ではポイントを取るのが難しい。そこは彼がどう判断するかになる」と話す。アジア大陸枠が既に決定しており、ポイントの積算を考慮すると残りのルートでも実質的に五輪切符の争いが始まっているだけに、ビーチでの五輪出場を目指すならば時間的な猶予はない。
この点について、水町本人がどう考えているのか。本人に尋ねると、「何も考えてないですね。その時思ったように生きていきます」といったんは質問をかわしたものの、「そこだけが最近の悩みですね。『どうする?』みたいな」と率直な心境を吐露した。
ただ、黒沢が補足したところによると、青木コーチからはビーチへの専念が必要となるポイントランキングによる出場権獲得ではなく、五輪予選シリーズで優勝して出場権獲得を目指すルートを提案されているという。もちろん一定のポイント獲得は前提で、しかもトーナメントで優勝したペアのみが五輪切符を手にする険しい道のりだが、隣で聞いていた水町は「僕がいない間に(黒沢が)ありったけのポイントを稼いでくれると思う」と笑顔を見せる。
今後に向けては、「僕は先を見てやるのが苦手で、小さい時から五輪に出たいと思ってやってきた人じゃない。目標にしちゃうと性格的にたぶんダメなんです。結局、目の前の試合を一つ一つこなすことの積み重ねだと思う」と水町。「(五輪の話は)心強いコーチに任せて、僕らは一生懸命ビーチバレーやるだけです。変なこと考えちゃだめだね」と笑い飛ばす姿は、プレー同様に豪快であった。