「人に指図されていたら、いい仕事はできない」。欧州サッカーの最前線で活躍する日本人代理人、龍後昌弥氏は、ドイツ最強の代理人事務所「スポーツ360」の社長サーシャの言葉をこう紹介する。龍後氏は自著『最強の代理人 欧州最前線の代理人が日本サッカーを強くする』(KADOKAWA)の中で、知られざる代理人業界の内幕と、熾烈なビジネスの現実を明かしている。
「スポーツ360」のトップ二人の異なるバックグラウンド
「スポーツ360」は、ビジネス界出身のフォルカー会長と、サッカー界出身のサーシャ社長によって率いられている。フォルカー会長はビジネス畑の出身で、社員にとって頼もしい存在だ。龍後氏によれば、フォルカー会長は「欲しい選手がいるなら、いつでもテーブルに呼んでくれ。俺が契約をまとめる」と言ってくれるという。
一方、サーシャ社長はサッカー界の出身。22歳のときにドイツのアマチュアクラブでインターンをしていたところ、突然オーナーから「スポーツダイレクターになってくれ」と誘われ、強化責任者になった。しかし内部の派閥争いに嫌気がさし、代理人に転身。その後、フォルカー会長と共に「シュポルト・トタール」(現在の「スポーツ360」の前身)で名を上げ、役員を経て、独立した代理人の動きを受けて新たに「スポーツ360」を設立した。
サーシャ社長の深い慈愛と細やかな気配り
サーシャ社長の父親はドイツ人、母親はタイ人で、アジア人の文化的背景をよく理解している。身長190cmを超える大柄で迫力のある見た目だが、仕事は繊細かつ丁寧。龍後氏がサインを求めて書類を送ると、たいてい30分以内に返してくれるという。
龍後氏は、サーシャ社長が示した深い慈愛のエピソードを明かす。ガムシャラに働いていた龍後氏に対し、サーシャ社長はあるとき特別休暇を提案したという。「マサヤに一つだけ言うことがある。お前は働きすぎだ。他の社員はケツを叩かないといけないし、こんなこと言うことなんてまずないけど、とりあえず近々2週間日本に帰って、オフを満喫してこい。このまま仕事を続けたら電池が切れるぞ。俺はお前のバーンアウト(燃え尽きること)が心配だ」と語ったという。
トニ・クロースとの関係と多角的なビジネス展開
サーシャ社長は、元ドイツ代表MFトニ・クロースの担当として、トニの活躍とともに業界で力をつけていった。一担当から社長にまで成り上がった苦労人であり、現在もドイツ代表監督ユリアン・ナーゲルスマンのエージェントを務めている。さらに、「アイコンリーグ」というミニサッカーのリーグでトニやドイツのトップストリーマー、ラッパーなどを束ね、その会社の社長も兼任している。
龍後氏は、サーシャ社長の細やかな気配りこそが、監督や選手の心を掴み、強固な信頼関係を築く秘訣だと指摘する。「人に指図されていたら、いい仕事はできない」という言葉通り、サーシャ社長は社員の自主性を重んじ、同時に愛情深いリーダーシップを発揮している。
日本人代理人が欧州で挑む現実
龍後氏は「スポーツ360」で働く日本人代理人として、欧州サッカーの代理人業界の厳しさと魅力を体感している。同社のようなトップエージェンシーで働くことで、日本サッカーの発展に貢献したいという思いを強くしている。本書では、代理人の役割や交渉の舞台裏、そして日本サッカーが世界と戦うためのヒントが綴られている。



