南海トラフ巨大地震の固着状態に地域差、東大などが11年観測で解明
南海トラフ固着状態に地域差、東大などが11年観測で解明

プレート境界の固着状態に「安定領域」と「変動領域」

東京大学生産技術研究所などの研究グループは、南海トラフ巨大地震の想定震源域内において、プレート境界の固着状態が「長期間ほぼ変化しない領域」と「時間とともに変化する領域」に分かれることを明らかにした。この発見は、甚大な被害が予想される巨大地震の規模や発生過程の理解につながり、事前防災対策への活用も期待されている。

研究グループは、東京大学生産技術研究所の横田裕輔准教授、海上保安庁海洋情報部の渡邉俊一主任海洋防災調査官、気象庁気象研究所や海上保安大学校の研究者らで構成された。

南海トラフのメカニズムと固着の「ムラ」

南海トラフは、静岡県沖から九州の日向灘沖にかけて延びる海底の巨大な溝で、フィリピン海プレートが日本列島側のプレートの下へ沈み込んでいる。プレート同士が強く固着すると境界面にひずみが蓄積され、限界に達した時に巨大地震が発生すると考えられている。しかし、固着状態は一律ではなく「ムラ」がある。しっかり固着している領域では陸側のプレートが引きずり込まれてひずみが蓄積し、それが一度に解放されて大きな地震を起こす。一方、固着が弱い領域は沈み込みがスムーズで、ひずみの蓄積はほとんどない。こうした基本的なことは分かっていたが、固着状態が時間の経過とともにどのように変化しているかなど詳しいことは未解明だった。

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11年にわたる海底地殻変動観測データを解析

横田准教授らは、海上保安庁の海底地殻変動観測網「SGO-A」のデータを活用した。この観測網で使われている「GNSS-A」技術は、人工衛星と音響測距によって海底の位置を高精度で観測し、地殻変動を捉えることができる。2013年から2023年までの11年間にわたる観測記録を解析し、プレート境界の固着強弱の指標「すべり欠損速度」を調べた。この指標は、通常のプレート運動がどのくらい妨げられているかを示している。

解析の結果、紀伊半島沖や四国沖など日本列島南岸に近い海底下には、観測期間を通じて固着状態がほとんど変わらない領域が存在することが判明した。研究グループはこれを「安定した固着域」と名付けた。一方、その南側(海岸から50キロ以上離れた沖合)の海底下には、固着の強さが時期によって変化する領域が確認された。部分的にすべったり、再び固着したりする現象が繰り返されている可能性もあるという。

スロースリップ現象との関連性

研究グループはこれまでに、南海トラフ沿いでスロースリップ(ゆっくりすべり)現象が発生していることを報告している。この現象は通常の地震のような急激な断層破壊ではなく、断層が数日から数カ月かけてゆっくり動く現象で、プレート境界の微妙な力関係に影響を与えると考えられている。

今回の研究で明らかになった固着状態の地域差は、スロースリップ現象とも関連している可能性があり、想定震源域全体が一様にひずみを蓄積しているわけではないことを示唆している。そして、確認された安定固着域は、将来の巨大地震で大きなエネルギーを放出する領域になるとみられる。

今後の観測と防災対策への期待

海上保安庁は、今回の研究で用いた観測点に加えて新たな観測点を設置し、長期にわたる継続的な観測を充実させている。研究グループは今後、今回は十分に解明できなかった想定震源域の西端や南端の状態も明らかにできると期待している。今回の研究成果は6月3日に国際学術誌「アース・プラネッツ・アンド・スペース」に掲載された。

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南海トラフ巨大地震について、政府は昨年3月に「死者29万人超」などとする新たな被害想定を公表した。政府の地震調査委員会は昨年9月、今後30年以内に発生する確率について従来の「80%程度」を見直して「60~90%程度以上」としつつ、別の計算方法による「20~50%」との数値も併記したが、防災対策を進める観点から「60~90%程度以上」を強調する、とした。また、国土交通省は今年1月に対策計画を改定し、建物被害や津波などによる直接死を減らす「命を守る対策」に加え、災害関連死も減らす「命をつなぐ対策」を重点的に進める方針を明らかにしている。