現代の子どもは、スマートフォンや人工知能(AI)の普及により、「なぜ空は青いのか」といった疑問を抱いても、すぐに答えを得られる環境にある。しかし、昔ばなし研究者の沼賀美奈子氏は、この利便性が子どもの思考力を弱めていると警鐘を鳴らす。沼賀氏は「問いから答えまでの距離が短い現代では、自分で意味を見つける力や試行錯誤しながら理解する力が失われつつある」と指摘し、その対策として昔ばなしの活用を提案している。
「鶴の恩返し」が教える推論の大切さ
沼賀氏は著書『昔ばなしの魔法』(青春出版社)の中で、なぜ「鶴の恩返し」のような昔ばなしで「見てはいけない」というタブーが存在するのかを考察する。昔ばなしは情報が限られており、読者や聞き手は足りない情報を自分で補い、推論する必要がある。このプロセスこそが思考力の基盤を育むと沼賀氏は言う。例えば、「鶴の恩返し」では、鶴がなぜ機織りをしているのか、なぜ覗いてはいけないのかを考えることで、因果関係を推論する力が養われる。
不便さが思考力を鍛える
沼賀氏は「不便さこそが思考力の土台をつくる」と強調する。現代のデジタル環境では、疑問に対して即座に答えが得られるため、子どもが「もしかしてこうかな?」と仮説を立てる時間が奪われている。昔ばなしは、あいまいな表現や省略された部分を自ら解釈する必要があるため、答えが出ない問いを投げ出さずに抱える忍耐力も養う。このようなプロセスを繰り返すことで、子どもは「先を読む力」や「意味を考える力」を自然と身につけることができる。
現代の子育てに昔ばなしを取り入れる意義
沼賀氏は、昔ばなしが現代の子育てにおいて重要な役割を果たすと主張する。スマホやAIに頼りがちな生活の中で、昔ばなしを読み聞かせることは、子どもが自ら考える習慣を取り戻すきっかけとなる。特に、答えが一つではない問いについて親子で話し合うことで、思考の深まりが期待できる。沼賀氏は「限られた情報から推論するプロセスを楽しむことが、子どもの知的好奇心を刺激する」と述べている。
具体的な昔ばなしの活用法
沼賀氏は、具体的な昔ばなしの活用法として、読み聞かせの後に「なぜそうなったと思う?」と問いかけることを勧める。また、複数の解釈が可能な昔ばなしを選び、子ども自身に意味を考えさせることも有効だ。例えば、「かぐや姫」では、なぜかぐや姫が月に帰らなければならなかったのかを考えることで、別れや運命についての理解が深まる。このような活動を通じて、子どもは自分なりの答えを見つける力を育むことができる。
まとめ
沼賀美奈子氏は、昔ばなしが子どもの思考力を育むための優れた教材であると結論づける。現代の便利な環境に甘んじることなく、あえて不便な昔ばなしの世界に触れることで、子どもは推論力や想像力を自然に身につけることができる。親としては、スマホを置いて昔ばなしを読み聞かせる時間を意識的に作ることが、子どもの成長につながるだろう。



