東大生に広がる「うつ」と休学者の急増
東京大学の休学者数は、この10年間でおよそ1.6倍に増加している。かつてはエリートの代名詞だった東大生たちの間で、うつ病や適応障害に苦しむケースが目立つようになっているのだ。その背景にあるのは、一見華やかな「成功」の裏側に潜む心理的な落とし穴だ。
自身も2浪で東京大学に合格した経験を持ち、6月29日に新刊『東大うつ』を上梓した西岡壱誠氏(一般財団法人ドラゴン桜財団代表理事)は、この現象を「成功者ゆえの不幸」と名付ける。東大合格という頂点に立った者たちが、なぜ心を病んでしまうのか。そのメカニズムを、西岡氏は身近な事例を交えて解説する。
「全勝で東大まで来てしまう」という落とし穴
西岡氏の友人のNさんは、2年半もの間うつ病に苦しんだ典型的なケースだ。Nさんは幼少期から優秀で、受験戦争を一度も負けずに東大まで駆け上がった。いわば「全勝」の人生を歩んできた人物である。しかし、大学入学後に初めて直面した挫折が、彼を深い絶望に突き落とした。
「負けたことのない子ほど、最初の負けで深く沈み込みます」と西岡氏は指摘する。Nさんは人生の「年表」が計画通りに進むことに慣れきっており、わずかな狂いも許せなかった。その結果、些細な失敗が致命的なダメージとなり、うつ病を発症したのだ。
「年表」ではなく「地図」として人生を見直す
西岡氏は、こうした「全勝の落とし穴」を避けるためには、人生を「年表」ではなく「地図」として捉え直すことが重要だと説く。年表は一直線に未来へ進むものだが、地図は行き止まりや回り道も許容する。失敗を経験として活かし、柔軟に進路を変更できる考え方が、心の健康を守る鍵となる。
『東大うつ』では、こうした思考の転換を促す具体的な方法が紹介されている。西岡氏自身も2浪の経験から、計画通りにいかない人生を受け入れることの大切さを痛感したという。
東大生の休学者増加が示す警鐘
東大の休学者増加は、単に一大学の問題にとどまらない。日本のエリート教育が抱える構造的な課題を浮き彫りにしている。競争に勝ち続けることだけを目標に育った若者たちが、その後の人生で脆弱さを露呈するケースは、今後も増える可能性がある。
西岡氏は「成功者ゆえの不幸」という概念を通じて、教育現場や家庭で「負ける経験」の重要性を訴えかけている。挫折を恐れず、それを成長の糧とする姿勢こそが、真のレジリエンスを育むのだ。



