女性研究者が研究と出産・育児を両立できるよう、大学が職場環境の整備を進めている。大学の研究者に占める女性の割合は、欧米諸国の4割程度に対して、日本は3割未満と低い水準にある。文部科学省は両立支援に取り組む大学に補助金を出すなど、ロールモデルとなる女性研究者の育成を後押ししている。
東京大の取り組み
建築資材の再利用について研究する小林真理さん(34)は、生後7か月の長男を抱えてバスに乗り、東京大・本郷キャンパス(東京都文京区)に出勤する。午前9時15分から午後5時15分まで、構内にある保育園に長男を預ける。
岡山大大学院を卒業後、夫と山口県宇部市で暮らしながら研究員として民間企業に勤務。昨年8月、東大大学院の特任助教に転職し、単身で上京した。今年2月に出産し、5月に研究室に復帰した。
会社員時代に留学したドイツでは、子育てしながら学会に参加する女性研究者が数多くいた。子育てと両立できる研究環境を重視して、転職先を探した。東大の工学系研究科には育児支援室があり、母乳を保管できる冷蔵庫や哺乳瓶を滅菌する電子レンジなどが備えられている。小林さんは「子どものいる研究者を歓迎する大学の姿勢がうれしかった。育児も研究者のキャリアも諦めない」と奮闘している。
女性研究者の割合と課題
文科省の調査によると、日本の大学研究者に占める女性の割合は29.2%(2024年)。増加傾向にあるが、英国の46.1%(17年)、ドイツの41.4%(21年)などと比べると低い水準だ。
助教以上の大学教員のうちの女性割合を分野別にみると、人文科学系が36%の一方で、理学系は11.3%、工学系は8.3%だ。女性研究者が一定数いる文系分野では比較的、環境整備が進められてきた一方で、理系分野では遅れが指摘されている。
名古屋大で男女共同参画・多様性を担当する永田雅子副学長は「『家事・育児は女性が担う』『理工系は男性が得意』といった社会全体に潜む意識が、女性の活躍にブレーキをかけている」と指摘する。
キャリアを積む過程で、出産・育児などを理由に女性研究者が減っていく様子は、つなぎ目から水が漏れるパイプに例えて「水漏れパイプライン現象」と呼ばれる。理学系の場合、学部で29.4%だった女性の割合は、博士課程に進むと20.4%に低下。その先の助教では17.9%、教授では7%まで下がる。
研究者の中に女性が少ないと、例えば薬の開発時に、男女による副作用の違いが想定されないといった、社会全体の不利益につながる可能性もある。永田副学長は「女性を含めた多様な視点で研究しなければ、複雑化する課題に対応できない」と指摘する。
筑波大の支援策
筑波大医学医療系の助教・平野有沙さん(41)は18年に長女を出産し、5か月後に職場復帰した。当時、職場には授乳スペースがなく、泊まりがけの学会に子どもを連れていったこともあったという。
同大は23年、女性研究者の意見を基に職場環境を検討する会議を設けた。「後輩たちが安心して両立できるよう声を上げていきたい」と思ってきた平野さんは、授乳室の設置を提案し、実現させた。
また、同大は「子どもの送り迎えに重ならないよう、重要な会議は午前10時~午後3時に開く」「学会などで国内出張する際の子どもの交通費を支給」などの支援を導入した。同大は「女性だけでなく、子育てや介護中の男性も研究を続けやすくなった」と効果を強調する。
政府の支援策
政府は今年7月に閣議決定した「日本成長戦略」に、固定的なキャリア観の刷新を掲げ、若手女性研究者の活躍推進を盛り込んだ。
文部科学省は来年度、女性研究者の復職支援、実験補助員らの雇用などを行う大学に対し、年間最大5000万円程度の補助金を交付する計画だ。出前授業や女性研究者との交流など、理系志望の女子中高生を増やす取り組みも支援する。同省の相原恵子・人材政策推進室長は「男性中心という研究現場のイメージを変え、女子学生が迷わず目指せる魅力的な進路先にしたい」と話している。