「人生はRTA」と信じる東大生たち 初めての挫折がうつ病に直結する「全勝の落とし穴」
「人生はRTA」と信じる東大生たち 挫折がうつ病に直結

「負けたことのない子ほど、最初の負けで深く沈み込みます」――西岡壱誠氏(一般財団法人ドラゴン桜財団代表理事)は、著書『東大うつ』の中でこう指摘する。東大生の中には、幼少期から受験戦線を勝ち抜き、いわゆる「全勝」で大学に進学した者が少なくない。しかし、その成功体験がかえって心の脆さを生み、初めての挫折がうつ病などの精神疾患を引き起こすケースがあるという。

「全勝で東大まで来てしまう」落とし穴

西岡氏が語るNさんは、中学受験で全勝し、高校でも常に上位、現役で東大に合格。入学後も定期試験で高い成績を取り続けてきた。受験勉強というシステムの中で要求されるテストには、ほぼすべてのケースで合格してきたという。一見すればまばゆいばかりの成功の連続だが、そこには「人生で一度も本気の負けを経験しないまま大人になってしまう」という落とし穴が潜んでいる。

「人生年表」に縛られる若者たち

Nさんのような東大生でうつ病や適応障害になった人の一部は、「人生年表」を持っている場合が多い。何歳でこの試験に合格し、何歳でこの大学に入り、何歳でこの資格を取り、何歳でこういう職業に就く――子どもの頃からの「自分の理想の人生スケジュール」が存在し、そのスケジュール通りに進むことが「正しい生き方」だと考えている。普通、理想通りにはうまくいかないものだ。中学受験で第1志望がダメだったり、大学受験で浪人したりと、何かしらの失敗を経験することで、「理想はあくまで理想」と精神的に折り合いをつけることができる。しかし、一部の東大生は、人生年表が20歳前後まで一行もズレることなく進んでしまう。予定通り、常にテストで一番の成績を取り、品行方正で、中学受験でも大学受験でも第1志望に一発合格できる。それは本人の生来の優秀さと弛まぬ努力の結果だが、逆にその成功が自分を追い込む。「全てがうまくいって『しまった』からこそ、最初の失敗がとても辛い。年表からの最初のズレが、いきなり致命傷になってしまう場合が多い」と西岡氏は指摘する。

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「人生はRTA」という比喩

Nさんは自分の人生を、「リアルタイムアタック(RTA)」というゲーム用語に例えた。RTAとは、ゲームのクリアまでにかかる時間をいかに短く縮めるかを競うタイムアタックのことだ。決められたルートを、決められた順番で、寄り道せずに進んでいく。少しでもミスをすればタイムが伸びるため、走者は常に最短ルートを意識し続ける。Nさんがこの言葉で自分の人生を表現したのは、西岡氏にとって「言い得て妙」だったという。中学受験、高校受験、大学受験、そしてその先の資格試験――Nさんはまさに、自分の人生年表の上で、最短タイムを更新し続けるランナーとして走ってきたのだ。

「人生はRTAではない」という気づき

しかし、人生はゲームと違い、リセットボタンはない。Nさんは、初めての大きな挫折(例えば、希望する研究室に入れなかった、就職活動で不採用が続いたなど)を経験した際、これまでの成功体験が逆に重荷となり、深い自己否定に陥った。西岡氏は「人生はRTAではない。寄り道も、失敗も、むしろ成長の糧になる」と語り、東大生に限らず、過度に効率や成功を求める現代社会の若者たちへの警鐘を鳴らしている。

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