埼玉県狭山市の西武学園文理中学・高等学校は2024年度から、「自ら考え行動できる人」の育成を目指した「ガチ・プロジェクト」を開始した。生徒は10以上のプロジェクトから興味のあるものを選び、社会人と協働しながら「ガチ(本気)」で活動している。担当教諭と生徒にプロジェクトの特徴や成果を聞いた。
プロジェクトの概要と拡大
「ガチ・プロジェクト」は教員が用意した10プロジェクトからスタートし、2025年度には「制服デザイン」「ポッドキャスト」「メディアマネージメント(ドラマ・CM制作)」など14プロジェクトに発展した。教員はメンターとして寄り添い、いずれのプロジェクトにも社会人サポーターが加わる。生徒の参加は任意で、放課後や土曜日に活動するが、事前に自ら動くことを前提に参加するよう伝えている。
スタートに携わった永嶋稔久教諭は、「『不可能を可能にする』をテーマに、生徒の提案は否定せずに受け入れ、実現できる方法を一緒に考えるよう心がけました」と話す。「学校は、安全な環境の中で失敗できる場所。失敗や挫折をくり返して心の回復力を鍛えながら、次のステップに進む力を身につけてほしいと考えています」
プロジェクト主任の土山敦司教諭は、「指導するのではなく、裏方に徹することを意識しています。活動中は、プロジェクトと関係のない話をする時間も多いのですが、常に生徒の横に立ち、伴走する立場でいたいと思います」と言う。
ハロウィンイベントの成功
「ガチ・プロジェクト」では、生徒がさまざまな活動を進めている。なかでも狭山市と協働する「ハロウィンイベント」は、200人以上の生徒が参加する大プロジェクトで、10月には地域の人々を招き、来場者が4000人を超える祭り「Hospitality Halloween」を開催。2025年度には全長数百メートルの巨大お化け屋敷や打ち上げ花火などを企画し、地域のキッチンカーの出店なども実現させて盛り上げた。
このイベントに興味をもったことが同校を志望した理由の一つだという冨田遥生君(高3)は、初年度からプロジェクトの統括を担当してきた。「1年目のお祭りでは小さなトラブルがいろいろ発生したので、2年目は独自のマニュアルを作成し、安全管理を徹底しました。埼玉西部消防局の指導のもと、幹部と保安担当の生徒が救助訓練を行ったことで、生徒一人一人の防災意識が向上しました」
入学説明会での発表
3月20日の入学説明会では、新高1生とその保護者に向けて、各プロジェクトの多様な活動内容を発表した。一つのプロジェクト内で複数の活動を進めているケースがあるため、当日は14プロジェクトから16チーム約30人が発表を担当。土山教諭は「生徒には、新入生に向けて自分たちのプロジェクトを紹介してほしいとだけ伝え、あえて細かい指示は出さず、事前チェックも一切行いませんでした。ガチ・プロジェクトの目的と同じく、発表会も生徒が主体的に考えて準備してほしいと考えたからですが、実は当日までとても不安でした」と笑う。
「でも発表では、活動方針から紹介し始める生徒や、成果・実績を中心に話す生徒、全体のストーリーに合わせた演出を行う生徒など不安を払拭してくれるクオリティーで、各プロジェクトの特色が見える発表会になりました。新入生にとっても、入学までに参加したいプロジェクトを検討する機会にもなったと思います」
生徒の成長と進路への影響
2年間の「ガチ・プロジェクト」を経て、生徒は自分たちで考え、先回りして行動する力が身についているようだ。冨田君は「統括は、全体を眺めて調整する立場で、実際の作業は担当者に任せることが大切だと気づきました。ただ、作業をお願いするときなどは伝え方が難しく、強く言い過ぎると、誰も発言しなくなって全体の風通しが悪くなる。そこで、幹部会議で進捗状況を話してもらう場を設けました」と言う。
「さらに、活動記録を管理・通知するアプリを開発して出席率を視覚化し、メンバー同士が刺激し合い、自発的に行動できる仕組みをつくりました。また、最終発表会では、みんなが等しく学べる環境をつくることも統括の役割と考え、手を挙げた人に発表を任せました」
こうした生徒の様子について永嶋教諭は、「主体的に行動する生徒が増えました。さらに周囲の生徒が刺激を受け、『自分にもできるんじゃないか』と動き出す姿が見られます」と評価し、ハロウィーンに歌手の優里さんを招こうとした時の生徒たちの活動を振り返る。「ハロウィーンでは実現できなかったのですが、企画の練り直しが続けられました。そして、ハロウィーン当日に利用しなかったカラオケの機材に着目し、『別の日にカラオケ大会を開催し、優里さんにサプライズで登場していただくのはどうか』というアイデアが出て、見事、実現にこぎつけたのです」
さらに、「ガチ・プロジェクト」は、生徒の活動の幅を広げ、進路にも影響を与えている。冨田君は、「ハロウィーンの活動で安全管理に興味をもち、地域で新たなお祭りを立ち上げて防災訓練を行ったほか、他校で防災に関する授業を行ったり、『世界津波の日』高校生サミットで発表したりと、プロジェクトでの活動が自分の可能性を広げてくれていると感じます」と言う。「将来は防災関連の職業に就きたいと考え、大学は総合政策学部など、文理を問わず興味のある分野を突き詰められる学科に進みたいです」
今後の展望
3年目を迎えた「ガチ・プロジェクト」は、活動をより充実させていく予定だ。永嶋教諭は、「当初のプロジェクトは大人が考えたものですが、生徒が自分のやりたいことをかなえる『夢の実現プロジェクト』では、『狭山市をピザの街にする』という活動が生まれるなど、我々の想像を超えた活動が生まれています。今後も、こうした生徒発のプロジェクトを行い続け、その魅力を学外に発信できるようにしたいですね」と抱負を語った。



