神田女学園中学校高等学校(東京都千代田区)は昨年度から、理系分野への関心を育てる課外講座「理系・体験型特別プログラム」を実施している。数学が苦手でも進学のチャンスがある理系学部を志望する生徒に、調査や観察の機会を提供するのが目的だという。昨年度2講座を開講したところ好評だったことから、今年度は10講座に拡大した。その中から7月18日に開催された「皇居外苑生物観察実習」に同行してきた。
北の丸公園で大学生の指導員らとともに生物観察
7月18日、1学期の終業式の後、「皇居外苑生物観察実習」に参加する中1から高3までの生徒31人は1班5、6人の6班に分かれ、学校から徒歩15分程の皇居外苑・北の丸公園(千代田区)に向かった。
生徒たちはすでに、この日のためにワークシートを使って事前学習を済ませており、「今日はヒキガエルを探したい」「いろいろな虫の名前が分かるといいな」などと会話を弾ませている。担当する探究科主任・理科の下村颯(はやて)教諭が、「今日は『虫』じゃなくて『カメムシ』、『草』ではなく『シロツメクサ』といったように、名前で呼べるようになってください」と呼び掛けると、指導員として各班を担当する東邦大学理学部生物学科の学生ら6人とともに、生徒たちは約2時間の自然観察へと公園各地に散っていった。
観察を始めたいくつかの班についていった。この時期、水辺には多くのトンボが飛んでいて、指導員を務めた東邦大の4年生が、「青白いのがシオカラトンボ、黒っぽくて白い模様があるのがコシアキトンボです」と、丁寧に説明をする。指導員がカナヘビをパッと手で捕らえ、「カナヘビは日光に当たることで、骨の形成に役立つビタミンDを作るんです」と解説する場面もあった。
生徒たちもバッタを手で捕まえ、「捕れた!」と他の生徒に見せては放したりしている。捕まえた高2の生徒は、「手の上に乗せてみると、形がよく分かります。普段は『あ、虫がいる』というくらいで終わってしまうのが、『これはショウリョウバッタというのか』と、名前も覚えるようになります」と話していた。
「どうやって生きているんだろう」という疑問を深める
下村教諭は、この観察実習の狙いについてこう話す。「学校は都内中心部にあることから、オタマジャクシがカエルになるということを知っていても、オタマジャクシもカエルも実際に見たことはないという生徒が多いのです。指導員とともに公園を散策して生き物の見分け方、同定の仕方を知り、『どうやって生きているんだろう』という疑問を深め、自分から調べを行うきっかけとしてほしいと思います。高2から文系・理系クラスに分かれることになりますが、その選択にも役立ててほしい」
この日の観察の結果はワークシートに記入して後日提出することになっている。
教育先進国デンマークに倣った「神田エフタスコーレ」
この日の生物観察実習を含む「理系・体験型特別プログラム」を開始した理由について理科・探究科教員でもある池田幸代教頭は、「文系の学びは文献を調べることで成立しますが、理系ではやはり、観察や調査によって自分でデータを蓄積する必要があるからです」と語る。「生物が好きだけれど、数学が苦手だから理系を諦めてしまう生徒がいることに、以前から気付いていましたが、現在は、数学が苦手でも得意分野を生かして大学の理系学部に進学することが可能です。そこで、数学が苦手だけれど理系に興味があるという生徒に、観察や調査の機会を提供したいと考えました」
昨年度、「化粧品の科学」「皇居外苑生物観察実習」の2講座を開いたところ、それぞれ20人、30人の定員に達する参加があり、十分な手応えを得た。「皇居外苑生物観察実習」では、「虫は苦手だと思っていたのに、実際に見てみるとかわいい」「生き物のことをもっと知りたい」といった声が集まり、好評を得たことから、今年度も引き続き実施。このほかに「香りの科学」「北海道理系フィールドワーク」「理系療法体験講座」などを加えて10講座に拡大した。「保健医療や看護の世界を志す生徒が多いことから、生徒の興味関心に合ったテーマを設定しました。全国75の大学と結んでいる広域高大連携協定などを生かし、各講座において専門家が指導に当たり、本格的な知識を深めています」
この「理系・体験型特別プログラム」は、昨年度開始した放課後プロジェクト「神田エフタスコーレ」の一環だという。「エフタスコーレ」はデンマーク語で、英語なら「アフタースクール」にあたる。「昨年1月、教育先進国とされるデンマークとフィンランドを私たち教員が視察しました。その際、中高の間に1年間、教員と密接に関わりながら自分の興味関心を突き詰める『エフタスコーレ』という学校制度について学び、その考え方を本校で放課後の活動として取り入れたいと考えました」と池田教頭は話す。
「神田エフタスコーレ」では、「理系・体験型特別プログラム」のほか、お茶を飲みながら自分の探究のテーマを自由に語り合う「探究カフェ」、音楽を聴きながらそれを視覚的に表現する「オートマティスム」の講座を開講するなどしてきた。さらに、自習室に教員とチューターが常駐し、担任以外にも進路や学校生活について相談できるカウンセリング制度を設けるなどしている。
「高校に留学を必修とする『グローバルコース』を設けるなど、本校は英語・国際教育に強い学校として知られてきましたが、現在はフィールドワークを重視した探究活動にも力を入れ、広域高大連携協定によって、生徒の学びの機会を充実させています」
今のところ、理系の学部に進学する生徒は1学年の6分の1程度だが、「新しい学びの中で自分の『好き』を追求したい気持ちが育ち、それを諦める必要がないことに気付くことで、理系進学者がさらに増えるかもしれません」と、池田教頭は期待を寄せる。「これからも生徒の成長を支えるさまざまな新しい企画を実現させていきたいと考えています」



