育児用品メーカーのピジョン(東京)は、育児の不安や葛藤を抱え、孤立しがちな人たちをサポートしようと、社員研修などで活用できる「子育てエンゲージメントカード」を開発した。カードワークを通じて子育てで大切にしたいことを言語化し、参加者同士が共有することで相互理解を深め、悩みを相談しやすい関係づくりにつなげる狙いだ。同社が開いた導入検討企業向けのトライアル会を取材した。
カードワークで子育ての価値観を共有
子育てエンゲージメントカードは、同社とコンサルティング会社「トリプルバリュー」(大阪)が共同開発した。育児経験のあるピジョンの社員139人から集めた264の言葉をもとに、子育てで大切にしたい価値観を表す88のワードを、イラストとともにカードに記している。今年8月に1セット4400円(税込み)で販売を開始した。
トライアル会では、子育て中の男女が3~4人のグループに分かれて、カードワークを体験した。まずは1人ずつ自己紹介。氏名に加え、子どもの年齢や好きな食べ物などを1分ほどで紹介し、場が和んだところでカードを使ったワークに入る。
机の中央には裏返しになった88枚のカードの山。これを順番にめくって、自分が子育てで大切にしている価値観の書かれたカードを選び、5枚だけが最後に手元に残るようにする。他の参加者が選ばなかったカードをもらったり、シェアしたりすることもできる。
「直感で選んで大丈夫」参加者の悩みにファシリテーターが助言
「のびのび」と書かれたカードを手元に置いていた男性は、「なるようになる」のカードを引くと、思わず手が止まった。「うーん、似ているなあ。どうしようかなあ」と迷いを見せる。「誠実」と「信頼」、「思いやり」と「助け合う」など、意味の近い言葉も少なくない。
別のテーブルでは、女性が「『お金』って引いちゃった! どうしよう。大切は大切なんだけど、5枚の中には入らないなあ」と笑顔を見せていた。ファシリテーターが「『元気』と『体力』のどちらにするか悩まれる方も多いですね。お子さんの年齢によっても悩みは違いますから。直感で選んでいただいて大丈夫ですよ」と声をかけた。
すべてのカードを見終えた後は、5枚を選んだ理由をグループ内で発表する。なぜその言葉を大切にしたいのかを話し、相手の話にも耳を傾けることで、それぞれの価値観や考え方の違いが見えてくる。
制度だけでは解決できない孤立感への取り組み
ピジョンがこうしたカードを開発した背景には、制度や環境が整ってきても、育児に対する不安や迷いがなくなるわけではないという問題意識がある。男性の育児休業取得率は上昇し、両立支援制度も広がっているが、悩みを周囲に打ち明けられず、一人で抱え込んでしまう人は今も少なくない。
ピジョンとしては、カードを通じて育児で大切にしたいことを言語化して、「自分らしい子育て」の軸を見つけてもらい、さらに家族や職場のメンバーと互いの価値観への理解を深めることで、悩みを一人で抱え込まなくても済む環境づくりにつなげたいとの考えだ。
同社社長の矢野亮さんは、「私も家庭で妻とカードワークをしたことがあります。『あれ、そのカードは捨ててもいいの?』と聞いたら、『昔の自分への反省があるから、今はそれを大切にしていないの』と言われました。ケンカにならずに対話が生まれるんです」と話す。
福利厚生を整えるだけでなく、社員同士が互いの価値観を知り、悩みを相談しやすい関係をどう作るか。ピジョンの取り組みは、育児中の孤立を防ぐための一つの提案と言えそうだ。