英領北アイルランドで、難民による凄惨な刺傷事件を契機とした反移民暴動が2夜連続で発生し、社会に衝撃が広がっている。中心都市ベルファストでは10日夜、スーダン出身の難民の男が市民1人を刃物で複数回刺して重傷を負わせる事件が発生。この事件を受け、地元住民の怒りが爆発し、2夜連続の抗議デモが暴動に発展した。英政府高官は11日、暴徒の行為を「レイシスト(人種差別主義者)による暴挙」と強く非難し、16人が逮捕されたと発表した。
刺傷事件の詳細とSNSでの拡散
事件は10日夜、ベルファストの路上で発生。スーダン出身の難民の男が、地面に倒れた被害男性に馬乗りになり、頭や首を刃物で繰り返し切りつける様子が撮影された動画がSNSで瞬く間に拡散。この映像が住民の怒りを煽り、多くの人々が街頭に繰り出して反移民デモに参加する事態となった。被害者はスティーブン・オギルビーさん。北アイルランドのプロテスタント強硬派政党「民主統一党(DUP)」のギャビン・ロビンソン党首は、オギルビーさんの家族と面会後、容体が「快方に向かっている」と述べた。家族は事件を「恐ろしい悲劇」と表現する一方、平静を呼びかけ、暴力は「歓迎されない」と表明している。
暴動の規模と警察の対応
英政府のヒラリー・ベン北アイルランド相によると、10日夜の暴動で新たに警察官12人が負傷した。AFP記者は、覆面で顔を隠した暴徒数十人が夜遅くまで機動隊と衝突し、乗用車や建物に放火する様子を確認。特に、ベルファスト北西部にある難民認定申請者を受け入れる政府借り上げのホテル周辺では、暴徒と警官隊が激しく衝突。暴徒は火炎瓶やレンガを投げつけ、機動隊は放水銃で応戦した。ベン氏は10日の暴動の規模は9日よりも「はるかに小さい」と説明したが、9日夜には覆面の暴徒が車両や建物に放火し、複数の家族が避難を余儀なくされている。
市民への影響とモスク閉鎖
ベン氏は暴動がもたらした恐怖を強調。「肌の色を理由に覆面で顔を隠した暴徒に脅迫され、焼け出された人々にとって恐怖だった」と述べた。また、ベルファスト近郊のアルスター病院へ通勤中だった看護師の女性が暴徒に「追い回され、脅迫された」事例も報告された。北アイルランド最大のモスクの運営責任者ムハンマド・アルシェド氏は、9日に同モスクが歴史上初めて閉鎖を余儀なくされたと明かした。北アイルランド警察は、9日の暴動に関連して数人が訴追された後、10日夜の暴動に関連してさらに2人を訴追したと発表した。
暴動の背景と極右の関与
一連の暴動の大半は、英国への帰属維持を望むプロテスタント系ユニオニスト地域で発生。アイルランドとの南北統一を求めるカトリック系ナショナリスト地域はおおむね平穏を保っている。しかし、アイルランド警察のライアン・ヘンダーソン本部長補は、暴動がユニオニストの準軍事組織によって組織されたという「証拠はない」と述べた。当局は、極右活動家がソーシャルメディアで住民の怒りを煽っていると非難。刺傷事件の映像は、極右活動家スティーブン・ヤクスリーレノン氏(通称トミー・ロビンソン)によってX(旧ツイッター)に投稿され、米実業家イーロン・マスク氏によって拡散された。
移民問題を巡る緊張
英国ではすでに、南部イングランドのサウサンプトンで先週、英国籍のシーク教徒の男に若い白人学生が刺殺された事件への警察対応への不満から小競り合いが発生し、緊張が高まっていた。ベルファストの反移民デモに参加した配管工のブレンダンさん(50)は、北アイルランド紛争(1998年終結)で暴力にはうんざりしているため、「暴力に賛成する人は一人もいない」と強調。その上で、「人を切り刻むような非人道的な犯罪ほど、人々を結束させるものはない」と語った。別の参加者ジョンさんは、「今や『統一アイルランド』が存在する。一般人が操られていたことに気づいたという意味で団結している」と主張。反移民デモ参加者は「欧州全域への移民の流入について真剣に懸念している」と述べた。移民問題は英国とアイルランドの両国で激しい議論を呼び、英国では反移民を掲げる強硬右派政党「リフォームUK」の台頭要因となっている。当局は、ソーシャルメディア上で極右活動家が住民の怒りを煽っているとして警戒を強めている。



