中東情勢の緊迫化とホルムズ海峡の封鎖に端を発する「ナフサ危機」が、日本の暮らしと経済に深刻な影響を及ぼしている。ナフサは石油を精製して得られる化学製品の原料で、現代社会は燃料だけでなく、日用品、医薬品、食品包装に至るまで広範に依存している。個人でできる対策として、備え・防災アドバイザーの高荷智也氏は「無くなるモノ」ではなく「無くなると困るモノ」という視点から備蓄の優先順位を提唱。医療現場では、医師の木村知氏がナフサ供給停滞による手術や治療への影響を警告。さらに日本総合研究所の栂野裕貴氏は、政府が期待する米国産石油の代替調達に問題があると指摘する。
備蓄の基本:生命維持に必要な道具を最優先
高荷智也氏によれば、ナフサ危機下でまず備えるべきは「生命維持に必要な道具」だ。食料や水も重要だが、それ以上に優先すべきは、調理や衛生を確保するための道具類。具体的には、ガスボンベ式のカセットコンロや、携帯用トイレ、マスク、消毒液などが挙げられる。高荷氏は「ナフサ不足でプラスチック製品や包装材が不足すると、食品の保存や衛生管理が難しくなる。食料だけ備えても、調理や保存ができなければ意味がない」と説明する。
医療現場への影響:すでに2200品目以上の医薬品が供給難
医師の木村知氏は、医療現場への影響を深刻に捉える。医薬品や医療資材の多くはナフサ由来の原料に依存しており、供給が滞れば、すでに2200品目以上が供給難に陥っている医療体制がさらに悪化する。木村氏は「高市首相は『半年分以上の確保がある』と述べたが、この発言は医療従事者の不安を払拭するどころか、むしろ増幅させた。医薬品の製造プロセスや時間軸を理解しているとは思えない」と批判する。手術や治療の延期、最悪の場合「命の序列化」が現実になる可能性を指摘する。
エネルギー政策の盲点:米国産石油の減産見込み
日本総合研究所の栂野裕貴氏は、政府のエネルギー政策について分析する。高市政権は、代替調達先として米国(特にアラスカ産原油)に期待を寄せるが、栂野氏は「米国産石油は9月ごろまで減産の見込みだ」と指摘。米国国内の石油生産が減少しており、日本への輸出余力は限られている。栂野氏は「政府は他の代替調達先の開拓に加え、省エネ施策を早急に打ち出すべきだ」と提言する。
備蓄の優先順位:食料より先に備えるべきもの
高荷氏が提案する「最低限備えておきたい物資ランキング」では、第1位に「火を使わずに調理できる手段(カセットコンロ、固形燃料など)」、第2位に「衛生用品(マスク、消毒液、携帯トイレ)」、第3位に「情報収集機器(ラジオ、予備電池)」を挙げる。食料や水は4位以下となる。ナフサ不足でガスや電気の供給が不安定になる可能性を考慮し、エネルギーに依存しない備えが重要だと強調する。
今後の見通しと市民に求められる行動
ナフサ危機は遠い国際問題ではなく、この夏の生活に直結する。エアコンの本格稼働でエネルギー需要が高まる中、個人レベルでの備蓄と節約が求められる。専門家らは、政府の対策に頼るだけでなく、各家庭でできる範囲での準備を促す。高荷氏は「すべてを備えるのは難しいが、優先順位をつけて少しずつ準備すれば、いざという時の安心感が違う」とアドバイスする。



