米データセンター建設、1世帯1万ドル提示も住民は「賄賂」と反発
米データセンター建設、1世帯1万ドル提示も住民は「賄賂」と反発

米東部ペンシルベニア州の森林を見渡すテラスで、エド・ネグラさんは4通の手紙を並べた。いずれもデータセンターの開発業者から届いたもので、施設が稼働すれば各世帯に1万ドル(約158万円)の小切手を支払うと約束する内容だった。「私は賄賂だと思っている」と、退職して年金生活を送るネグラさんは語る。

美しい景色の下で始まった森林伐採

周囲には絵に描いたような美しい景色が広がる。秋の木々は赤褐色に色づき、山々の眺めも素晴らしい。ここは、間もなく行われる米中間選挙の激戦州、ペンシルベニア州の一角だ。「老後を過ごすのに美しい場所だと思った」と、70代のネグラさんは話す。以前は隣接するニュージャージー州で大型建築資材店の店長を務めていた。

ネグラさん夫妻が移り住んだのは、24時間体制の警備が敷かれた広大なゲート付きの居住区だ。ヘーズル郡区にある「イーグルロック・リゾート」には、森の中に数百戸の快適な住宅が点在する。ゴルフ場が二つあるほか、プールや乗馬施設、冬にはスキーを楽しめるゲレンデまで備えている。

しかし、居住区の下に広がる500ヘクタールを超えるエリアでは、大規模なデータセンターの建設に向けて森林が伐採されていた。「チェーンソーの大きな音を聞くまで、何も知らなかった」とネグラさんは振り返る。2024年末、森林の伐採が始まっていることに気づいたという。

住民の反対運動と1万ドル提案

住民たちはすぐに反対運動を始めた。事前に何の説明もなかったことに憤り、騒音や環境汚染への懸念を募らせた。こうした対立は全米各地で起きているデータセンターをめぐる紛争と重なる。データセンター建設は、11月3日の中間選挙でも争点の一つとなっている。

業界への反対運動を追跡する団体「データセンター・ウオッチ」によると、2026年1~3月には、住民の反対によって少なくとも75件のデータセンター建設計画が中止または延期された。世論調査では、データセンターへの反発が党派を超えて広がっていることも示されている。

一方、共和党のドナルド・トランプ大統領は、人工知能(AI)分野で米国の優位を確立するためとして、データセンター建設を強く支持し、反対派を非難している。

資産価値への懸念と地域支援策

ヘーズル郡区では、住民側が裁判所による建設中止命令を勝ち取ったほか、自治体も建設を一時停止する措置を講じた。広大な伐採地には、数台の重機が使われないまま置かれている。切り倒された木材はすでに運び出された。

しかし、開発業者のノースポイント・デベロップメントは計画を諦めていない。同社からの手紙が今も地元住民の郵便受けに次々と届いている。そこには「データセンターやわれわれの計画について、多くの誤情報や不安が広がっている」と記されている。

手紙には、郡区と住民向けの総額1億6500万ドル(約260億円)の地域支援策も示されていた。新たな警察署の建設やごみ収集料金の引き下げなどに充てられるとしている。このうち4500万ドル(約71億円)は、データセンターの最初の建物が稼働した時点で、4500世帯に直接支払われる予定だ。

公式な統計データによると、かつて鉱業で栄えたこの町では、住民の6人に1人が貧困ラインを下回る生活を送っている。「生活が苦しく、給料日前にはお金が底を突いてしまうような若い夫婦にとって、1万ドルは大金だ」──そう語るのは、居住区に暮らす元高校教師のジェフ・ファスナハトさんだ。

しかし、ファスナハトさんもネグラさんと同様、この提案を賄賂とみている。計画が進めば自宅の資産価値が大幅に下がる可能性があり、1万ドルでは到底その損失を補えないという。「ここには、いつまでも手付かずの森があるはずだった」と、ゴルフ愛好家のファスナハトさんはため息をついた。開発業者と郡区当局は、AFPの取材に回答しなかった。

「ダビデとゴリアテ」の戦い

谷を隔てた農村地域のシュガーローフ郡区では、住民たちが高圧送電線の建設に反対している。送電線はデータセンターへの電力供給が目的とみられている。シュガーローフ郡区の住民は、1万ドルの支払い案の対象には含まれていない。

「私たちが暮らす場所の美しさや静けさは、どれだけお金を積まれても取り戻せない」と住民のアニー・ビナティエリさんは語る。義理の両親、夫、幼い息子と同じ家で暮らしている。2年近くにわたり送電線の建設に反対してきたビナティエリさんは「この闘いは、まるでダビデとゴリアテの戦いだ」と、旧約聖書に登場する、少年ダビデが巨人ゴリアテに立ち向かう物語になぞらえた。

それでも、テクノロジー企業側に対抗するために多くの住民が立ち上がったことに勇気づけられているとし、「住民たちの団結力には驚かされる」と話した。

近くに住むエリカ・クックさん(42)は、保険会社で働く在宅ワーカーだ。夫と共に数羽のニワトリを飼い、家庭菜園で野菜を育て、所有地の森ではカエデの木から樹液を採ってシロップも作っている。しかし現在、その土地の一部が、巨大な送電鉄塔を建設するための土地収用手続きの対象となってしまったという。

それでも、共和党が選挙で圧倒的な強さを誇るこの地域で、クックさんは、データセンターへの反対運動には一つ良い面があると指摘する。「党派を超えて、人々を団結させていることだ」