県教育委員会の人権教育・生徒指導課に勤務する鳥山順さん(47)は、2019年春、倉敷市立箭田小学校で教諭として過ごした忘れられない光景を胸に刻んでいる。卒業式を目前に控えた「6年生を送る会」で、下級生が惜別の歌や劇を披露するたび、担任する6年生たちのしゃくり上げる声が次々と広がっていった。
「この子ら、我慢しとったんじゃな」。鳥山さんも涙をこらえ切れなかった。「思い切り、泣いていいんだ。みんながそう気付いた瞬間だったと思う」と振り返る。
被災した児童たちの涙
前年夏の西日本豪雨で甚大な被害を受けた真備町地区にある箭田小は、泥水につかった校舎が使えなくなり、近隣の他校に間借りして再開。「送る会」の頃は、市立二万小にできた仮設校舎に移っていた。
箭田小の児童は、みんな被災者。命からがら逃げた子もいた。心に傷を抱えながら肩を寄せ合い、隠してきた涙が一気にあふれ出た春の記憶だ。
鳥山さん自身、自宅や家族は無事だったが、水没した職員室に置いていた思い出の品々を失った。蓄積してきた研究資料や児童の文集などは全て宝物だった。喪失感を抱えながら、泥のかき出しや備品の搬出、学校再開に向けた準備などに追われ、「周りはみんな、自分よりずっと大変だから」と弱音を封印した。
「アース」から学んだ寄り添い
それが変わったのは、被災から1か月ほどたった頃、兵庫県教委の震災・学校支援チーム「EARTH(アース)」のメンバーたちが来てくれてから。つらかったら、つらいと言う。休みたい時は、休む。研修で、そんな視点を授けられた。
だから、鳥山さんも学校再開後、児童らに「頑張ろうとせんでええ。十分、みんな頑張っとるよ」と言葉をかけることができた。それでも「もっと気持ちを聴いてあげられたんじゃないか。もっと寄り添えたんじゃないか」と悔いもある。
阪神大震災を機に発足したアースに続こうと、岡山にも22年に教職員たちの「災害時学校支援チームおかやま」が誕生。その一員として鳥山さんは今夏、熊本県への派遣隊に志願した。被災地での支援活動は自身初めてで、第1陣の5人に加わり、激震に襲われた八代市の小中学校を8月10日から10校以上回った。
「つらいと言っていい」を伝えたい
現地の教職員たちは自らも被災しながら、校舎内の片付けや、一時移転や学校再開に向けた準備などに駆け回っていた。前向きで明るいのが、痛々しかった。「どんな小さなことでも頼って」と声をかけ、作業を引き取った。「アースがくれた安心感を自分も与えたい」と考えながらサポートした5日間。感謝されて岡山へ戻り、後発隊に支援のニーズを引き継いだ。
「教師になった頃、被災地支援に携わるなんて考えたこともなかった」と鳥山さんは言う。今は、使命感にも似た確信が心に満ちる。気持ちが分かるからこそ、寄り添える――と。
チームおかやまは、7日に熊本入りする第5陣までの派遣が決まっている。つらいと言っていい。泣いていい。そう伝えていける存在でありたいと鳥山さんは願う。教え子らと顔をくしゃくしゃにした春が、胸にある。



