ネパールと中国・チベット自治区の国境付近で26日に発生した鉄砲水と土砂災害について、氷河が崩落し、数千メートル下に落ちた巨大な氷の塊が川へとなだれ込んだ可能性が指摘されている。
氷河の崩落と被害の拡大
大規模災害を引き起こしたとみられる氷河の崩落は、チベット近くのネパールの山中で起きた。ニュージーランドの研究機関「GNSサイエンス」の上席研究員、サイモン・コックス氏は、「標高約5200メートルから巨大な氷河の塊が渓谷へと落下した」と述べる。
コックス氏はAFPに対し、その塊が「猛烈ながれきの塊へと姿を変え、岩や堆積物、樹木など、あらゆるものを巻き込みながら峡谷を突き進んだ」と指摘した。
巨大な水の壁はまず国境の検問所を襲い、監視カメラの映像には、人々が逃げる中、泥とがれきが周辺のすべてを飲み込んでいく様子が記録された。その後、濁流は下流のネパールへ達し、集落を浸水させ、橋や建物をなぎ倒した。
地震との誤認と規模の推定
氷河の崩落は大規模だったため、当初は地震と勘違いされた。しかし、米地質調査所(USGS)は分析の結果、「揺れは、地震ではなく氷河崩落と土石流によるものだった」と断定した。
崩落は現地時間午前8時37分(日本時間午前11時52分)に発生し、マグニチュード(M)5.2相当の地震として観測された。
コックス氏は、崩落した氷河の正確な規模の推定には時間がかかるものの「50万立方メートルから数千万立方メートルに及ぶ可能性がある」と述べた。
原因特定への取り組み
被災地域の広い範囲が立ち入り困難となっているため、専門家は衛星画像や地上で得られる測定値を頼りに災害の全容解明を進めている。
ニュージーランド・ビクトリア大学ウェリントンの氷河学者、ローレン・バーゴ氏は「発生前後の衛星画像を比較し、何が変わったか、特に『後』の画像で山から何が失われたかを探している」と説明した。
ネパール当局によると、地震活動が記録された直後、近くの水位観測所からの送信が停止したという。下流の観測所も相次いでオフラインとなったが、チベット国境近くのカリコーラでは、午後2時14分に水深が最大12.3メートルに達したことが記録された。
「氷河湖決壊洪水」の可能性と気候変動
当初は、気候変動による氷河融解に伴いリスクが高まっている「氷河湖決壊洪水(GLOF)」の可能性も示唆されていた。これは、氷河の融解水をせき止めているもろい土砂の壁が突然崩壊し、たまっている水が一気に流出することで発生する。
オーストラリア・サンシャインコースト大学の氷河学者、アドリアン・マカルム氏は「膨大な量の水が突然谷を流れ下る唯一の理由は、溜まっていた水が一気に解放されたからだ」とAFPに語り、今回の災害でGLOFが起きた可能性を示唆した。
一方、他の専門家からは、崩落現場付近で既存の氷河湖を確認できず、氷河の下に溜まった水が崩壊した氷の塊とともに流れ落ちたことが推測できるとの意見も挙がった。崩落した氷河が一時的に川をせき止め、その後、溜まった水が一気に放たれた可能性もある。
コックス氏は、上流での夏の氷河融解とモンスーンの雨により川の水位はすでに高くなっており、崩落現場から数キロ流れる中で巻き込まれた泥やがれきによって全体の水量もさらに増した可能性があると付け加えた。
氷河に関する事象を気候変動と直接的に結びつけるのは難しいものの、地球温暖化はこれら太古の「氷の河」にとって持続的なストレスとなっていると専門家は指摘する。氷河の後退は世界的に見られる現象で、災害リスクをもたらすだけでなく、下流域のコミュニティから貴重な水資源を奪うことにもつながっている。
前出の氷河学者バーゴ氏は、「こうしたリスクを軽減する最も大きな方法は、温室効果ガスの排出を削減して温暖化を抑えることだ」と強調した。



