富士山の魅力は「標高差が作り出す多様性」にある。頂上へ登るだけでなく、楽しみの幅が広がれば――。静岡支局長の田中誠氏が、夏の終わりに二十数年ぶりに富士山に登った体験を基に、富士山の現在の姿を伝える。
「富士山は見る山だ」という視点
「ちょっと山をかじった人に言わせると、『富士山は登る山じゃなくて見る山だ』となるのですが――」。写真家の石川直樹さんは、富士山が世界文化遺産に登録された2013年に発行された雑誌「現代思想」10月号の企画で、こう前置きし、富士山特有の魅力を語っていた。
「夜中にヘッドライトが提灯行列のように見えて、変じゃないですか。一つの山のなかにこれだけの数の山小屋がある山も珍しいし、(中略)真冬の恐ろしさから夏の俗っぽい部分まで、つねに変化し続ける姿を楽しめる」。だから、「富士山は面白い」と。
世界中を旅し、後に8000メートル峰全14座を登頂する石川さんならではのおおらかな視点だ。そんなことを思い出しながら到着した二十数年ぶりの富士山頂は、想像以上にごった返していた。
登山者増加と規制の現状
24年以降、混雑や弾丸登山を防ぐため、通行料・入山料の徴収や夜間の入山制限など様々な規制が実施され、安全に登山する環境は整いつつある。ただ、今年の夏季の登山者数は約24万人(環境省調べ)とここ10年で2番目に多く、人気ルートの山頂直下では、転倒の連鎖や落石の危険性が生じているという。
無謀な登山者による閉山期の遭難も課題となっており、山梨県は9月、来年から県防災ヘリによる救助を原則有料化する方針を表明。静岡県も歩調を合わせることになった。オーバーツーリズムを含め、ここ数年の富士山を巡るニュースにはマイナス方向のものが目立つ。