空席の課長ポスト、33歳営業マンに重くのしかかる負担
医療機器メーカーで営業を担当するD氏(33歳)がある朝、トイレで便器が真っ赤に染まるほどの下血に見舞われた。病院で虚血性大腸炎と診断され、原因はストレスと告げられた。この出来事をきっかけに、D氏は公認心理師である筆者のカウンセリングを訪れた。
D氏の部署では、課長が異動した後も後任が補充されず、課長ポストは空席のまま。部長から「君しかいない。課長の代わりに動いてほしい」と懇願され、正式な管理職ではないにもかかわらず、プレーヤーとしての業務に加え、同僚の取りまとめや予算資料作成など、課長相当の仕事を任されるようになった。給与は変わらず、休日出勤も日常化し、職場では同僚との関係もぎくしゃくし始めた。
「ジョブ・クリープ」現象と就職氷河期世代の「くびれ」
D氏のケースは、近年増加する「ジョブ・クリープ」現象の典型例だ。ジョブ・クリープとは、役職や給与の変更を伴わないまま、業務内容が徐々に拡大・高度化することを指す。特に、就職氷河期世代(いわゆるロスジェネ世代)は、企業の採用抑制により中間管理職層が薄く、空いたポストを非管理職がカバーせざるを得ない状況が生まれている。この世代の「くびれ」が、D氏のような労働者に過剰な負担を強いている。
D氏は「管理職でもないのになんでこんなことをしなきゃいけないんだ」と不満を募らせ、自宅でも2歳の子どもに八つ当たりしてしまうなど、心身のバランスを崩しつつある。
企業に求められる対策
専門家は、企業に対し、ポストが空いた場合の明確な代行ルールの策定や、業務拡大に伴う適切な評価・報酬の見直しを提言する。また、管理職候補への計画的育成や、メンタルヘルスケアの充実も急務だ。D氏のように、ストレスが身体症状として現れる前に、職場環境の改善が求められる。
D氏は現在、カウンセリングを通じて自身の働き方を見直しつつ、会社に正式な役職と処遇を求める準備を進めている。



