熊本県水俣市大迫の湯の児温泉街にあるホテル「湯の児温泉 海と夕やけ」には、人気の従業員に会うために訪れるリピーターがいる。その従業員とは、きれいにそり上げた頭が自慢の吉海哲也さん(68)。おせっかいが信条の「名物おじさん」が利用客に届けた記念写真は約1万3000組に上る。
開業前から続く接客の原点
「海と夕やけ」は、前身の「三笠屋旅館」の建物を受け継ぎ、2011年11月にオープンした。全室オーシャンビューが特徴で、夕方にはオレンジ色に染まった八代海の絶景を望むことができる。以前は夕景を見に来る観光客が多かったが、近年は「吉海さんに会いたい」という声が多く寄せられるようになった。
吉海さんは生まれも育ちも水俣市で、53歳の時に単身赴任先の東京から帰郷した。ハローワーク水俣で仕事を探し、開業前の2011年10月に「海と夕やけ」へ入社。人当たりの良さや親しみやすさが評価され、開業後はレストランスタッフとして働き始めた。
サプライズから生まれた記念写真
学生時代に喫茶店でアルバイトをしていた経験があり、接客は得意だった。誕生日や還暦、結婚記念日などの「乾杯」の声を聞くたび、「サプライズで喜んでもらおう」と考えた。耳に入る情報を逃さず、配膳の合間に小さなブラックボードへ祝意を記して手渡した。
「お客さんの驚きと喜び、そして広がる笑顔。こっちまでうれしくなった」と吉海さん。記念に持ち帰りたいとの要望に応え、メッセージを小型の額に入れて贈るようになった。「日々、新たな発見と発展の連続。記念日じゃないお客さんも来る。その日が後日、何かの節目になるかもしれない」と話す。乾杯の様子や当日の景色を写した写真を添えて自宅へ届ける工夫も重ねてきた。
積み上がった返礼のはがきや封書は、かけがえのない宝物だという。吉海さんは満面の笑みで「すべての出会いに感謝したい」と語った。