カスタマーハラスメント対策義務化で企業はどう対応すべきか
カスタマーハラスメント対策義務化への対応とは

2026年10月1日から、労働施策総合推進法の一部が改正され、すべての企業に対してカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務化された。具体的には、従業員が相談できる窓口や専任部署の設置、従業員を緊急(きずん)と守る企業側の体制づくりなどが求められている。

カスハラの現状と認識のズレ

これまで「現場の範疇」や「個人のスキル」の問題とされていた状況が、改善されるきっかけになればと期待されている。

一方、カスハラはグレーマーが多いため、自分の行動が「カスハラと認識しにくい」という特性もある。

弁護士ドットコム(東京都港区)が実施した調査では「カスハラの加害側になったことがある」と答えた割合は約1割で、そのうち7割超は「自身の言動がカスハラに当たる可能性があると認識していなかった」と回答した。「カスハラの動機」については「正当な判断・評価だと思ったから」が最も多く、約6割を占めていた。

航空業界のカスハラ対応マニュアル

そんな中、話題になっているのがANAやJALなどエアライン19社が加盟する業界団体が制作した「カスハラ対応周知動画」だ。

「次のような行為はカスタマーハラスメントに該当する可能性があります」という言葉で、9つの項目に分類したカスハラ行為を紹介している。その内容には「こんなひどいお客がいるのか?」と驚きつつも「これに近いことを、ひょっとしたら自分もやってしまうかも」と思わせるリアルさがある。

例えば「暴言・大声、威嚇・差別、居座り催促」や「恐怖を感じさせる言動」の項目にある「バカ」「あほ」「死んだ方がいい」「女のくせに」「男の上着を出せ」「死ね」「仕事をできなくさせてやる」などには、その露骨さにあきれてしまう。しかし「過剰な要求」に関する項目の「規定やルールを超えた特別対応を執拗(しつよう)に要求する行為」(補償・付添・アップグレードなど)は、どこからが「執拗」で、どこからが「執拗でない」のか。その線引きはケースによって異なり、曖昧(あいまい)で判断が難しいところだ。

現場での対応と従業員の心得

言うまでもなく、カスハラはあってはならない行為だ。

しかし、コミュニケーションという視点から考えると、客が投げた「ボール」を、相手(現場の従業員)がどう受け止め返すか次第で、グレーマーを「カスハラ」にせず、スムーズな解決へ導くこともできるはずだ。

筆者自身、国際線の新人客室乗務員だった頃、機内でエコノミークラスの乗客から「アップグレード」を依頼され、ルール通りにお断りしたことがある。それでも諦めない乗客に「申し訳ございません」と断り続けた。すると乗客はさらに逆上し、機内に響き渡る大声で罵声を浴びせたのである。「お前は謝ることしかできないのか! だからダメなんだよ! 最低だな!」と。

あまりの理不尽さに驚いた22歳の私はその場で号泣し、駆けつけて飛んできた先輩CAが引き継ぎました。すると、なんとその乗客はそのままエコノミーの座席で大人しく過ごし、機内を出るときには、満面の笑みを浮かべていたのである。

先輩はフライト後に「断ったのは正しい。でも、どんなことがあっても客の前で泣くな!」と一言。どう対処すべきだったかは教えてくれませんでした。

以後、フライトの経験を重ねるうちに、過剰な要求をされても、うまく対応できるようになりました。

念のため断っておきますが、カスハラは現場の対応次第、と言っているのではありません。グレーマーをカスハラにしないためには、接客である「私」たちが気をつけるだけではなく、従業員が接客の真意に少しだけ寄り添うためのスキルや知識を身に付けることも有効だと思うのです。