1992年夏。住宅金融専門会社(住専)7社に対する金融機関の融資一覧表を眺め、大蔵省銀行局長の寺村信行氏は「時間をかけるしかない」と考えた。住専を設立した母体行と一般融資行との間で損失分担が合意できるまで、住専の不良債権は処理できない。住専自身に当事者能力がないからだ。
母体行と一般融資行の利害錯綜
ほぼすべての銀行が母体行であると同時に一般融資行でもあるため、利害関係が錯綜し、損失分担の合意が簡単にはできない。行政指導で合意を促す手もあるが、最終処理に導くための“決め手”に欠ける。公的資金は当面投入しないとすでに決めている。
公的資金を使わず、自己責任で不良債権を処理するということは、銀行の内部留保と毎年の業務純益で償却するということだ。だが、頼みの株式含み益は、一挙に益出ししようとすると株価が暴落し、含み益そのものが吹き飛びかねない。業務純益も金融機関全体で年間5兆円程度だ。
「壮大な先送り」と批判された基本戦略
「やっぱり、これは時間のかかる話だ」。寺村氏はそう結論づける。仮に即時処理を求めようとしても、応じられない銀行の合意は得られないため、結局、処理は不可能になる。膨大な株式含み益がある以上、銀行はその体力の範囲内で、計画的、段階的に処理していくしか道はない──。後に「壮大な先送り」と批判される銀行局の基本戦略がこうして固まった。



