沼津市戸田の漁船「第二滋愛丸」。船の沈没や父との別れを経験しながら、船長の佐藤裕弥さん(50)が、深海魚の漁を続ける。漁師の高齢化が進み、やめる人も多い中、佐藤さんは「戸田の深海魚漁の文化を守りたい」と意気込んでいる。
父が愛用した船が沈没
戸田漁港は日本最深の海と言われる駿河湾に面し、良港として知られる。深海魚漁は地域産業の一つで、海底に網を沈め、魚を取る。世界一大きいと言われるタカアシガニやメヒカリなど、深海に棲む生物が水揚げされる。
深海魚漁を営む父の元に生まれた佐藤さん。戸田の海に触れて育ち、釣りをしたり、モーターボートに乗ったりして遊んだ。学校を卒業すると、浮桟橋を作る会社に就職した。手伝うことはあっても、漁業を継ぐことは考えていなかった。
状況が変わったのは2025年3月、船が沈没したことだった。その日、佐藤さんは父らと漁に出た。ポイントにたどり着くと、突然、船の煙突付近が燃え上がった。消火器を使うも、火の勢いは収まらない。「このままじゃまずい」と海に飛び込み、別の漁船に救助された。父も乗組員も無事だったが、父が15年ほど愛用した漁船「滋愛丸」は沈没。船を失った父は、落ち込んだ。
「第二滋愛丸」と共に歩む
船を新調し再起を目指した父だったが、病を得て、およそ半年後に亡くなった。佐藤さんの手元には、1隻の船と約4000万円の借金だけが残った。
「俺がやらなきゃ船が動かない」。佐藤さんは漁師を継ぐことを決意。船を「第二滋愛丸」と名付け、深海魚漁を始めた。
漁の技術と知識にたけた父の教えを請うことはできない。深海魚の漁をする人が減れば、深海生物の研究にも影響が及ぶという。手探りの毎日だが、見たことのない魚が取れるなど深海魚漁の魅力にも気づき始めた。「父がやってきたことを受け継ぎたい。地道にやっていく」と決意を固めている。
現在6隻のみ、高齢化進む
漁業者数は全国的に減少傾向にある。農林水産省によると、2025年11月現在の漁業就業者数は約11万人。15年は約16万6000人で、この10年で5万人超が減少した。
こうした状況は、深海魚漁に取り組む戸田漁港の漁師も同様。戸田漁協によると、同港では8隻が深海魚漁を続けてきたが、4~5年ほど前から引退する漁師が出始め、現在は6隻。船長の平均年齢は70歳代といい、高齢化も進む。同漁協の担当者は「後継者が不足している」と話す。



