53歳で警察官に転身、税理士経験を武器に知能犯罪と戦う
千葉県警に今年、53歳の新人警察官が誕生した。その名は中川昌哉さん。「財務捜査官」として、税理士事務所で培った経験を生かし、財務諸表の専門的分析を通じて横領や粉飾などの知能犯罪捜査に従事している。中川さんは「一日も早く捜査の技術を身につけ、先輩の背中に近づきたい」と意気込みを語る。
財務捜査官の役割と採用背景
財務捜査官は、詐欺や横領、粉飾決算などの事件で、容疑者の資産や関係企業の決算報告書から不正な資金の流れを特定する専門職だ。一般の警察官も警察大学校(東京都)の「財務捜査研修センター」で簿記などを学ぶが、財務捜査官は専門資格や実務経験を持つ人材を別途採用。これにより、複雑化・多様化する知能犯罪にプロフェッショナルな手法で対応する。千葉県警警務課採用係の公式インスタグラムでは、財務捜査官の仕事を紹介する動画も公開されている。
税理士を目指した過去と警察官への転身
中川さんは大学卒業後、日商簿記1級を取得。税理士を目指し、神奈川県の税理士事務所や東京都内の税務会計事務所で経験を積みながら、試験科目の「簿記論」と「財務諸表論」に合格した。昨夏、千葉県警が財務捜査官を募集していることを知り、「腕試しのつもり」で応募。届いた採用通知に「まさか合格するとは思っていなかった」と驚いた。警察官になるか、それまでお世話になった職場に残るか、正月休み明けまで悩んだ末、妻から「自分が納得する方を選べばいいよ」と背中を押され、「経験が多くの人のために生かせるなら」と決意。新たな環境に飛び込んだ。
警察学校での経験とドラマ「教場」との違い
4月に警察官を拝命し、警察学校に入校。木村拓哉主演のテレビドラマ「教場」を見ていた中川さんは、厳しい座学や訓練を覚悟していたが、実際にはドラマのような罵声はなく、適度な緊張感の中で指導が進んだ。10~20代が中心の同期とは、対等な仲間として切磋琢磨したという。
現場での奮闘と実感
現在は捜査2課の警部補として勤務。最初に関わったのは児童福祉施設での業務上横領事件だ。決算報告書などの読み方は理解していても、不正の痕跡を見つけて書類にまとめる作業は未経験。事件の全体像をつかみきれない中、懸命に任された作業をこなした。この事件では容疑者の身柄確保にも同行。警察署に移送する車の中で、ようやく「警察官として事件に関わっている」実感がわいたが、達成感はなく、「自分は日々必死に過ごしていただけ。大きな船に一緒に乗せてもらったような心境だった」と振り返る。
先輩財務捜査官のやりがいと県警の課題
中川さんの先輩で、公認会計士から財務捜査官となった岩崎肇さん(58)は、「捜査には客観証拠が重要。自分が作った資料が事件解決に役立った時は、高い山を登り切ったような達成感が得られる」とやりがいを語る。しかし、千葉県警の財務捜査官は中川さんを含めてわずか3人。53歳の中川さんが最年少という状況だ。
2025年版の警察白書によると、企業役職員による背任や横領、金融機関からの融資を巡る詐欺、国や自治体の補助金不正受給が後を絶たない。弁護士や税理士による詐欺・横領事件も発生しており、こうした事件の早期解決には高度な専門技能を持つ人材の確保・育成が喫緊の課題となっている。
次世代の担い手としての決意
中川さんは「いつの日か自分の力で事件をやり遂げて達成感を感じられるよう、経験を積んで成長していきたい」と、次世代の担い手としての使命感を燃やしている。
千葉県警、財務捜査官を募集中
千葉県警は現在、財務捜査官を募集している。採用予定人数は1人程度。対象は1965年4月2日以降生まれで、公認会計士や税理士の資格を持つか、銀行・保険会社での資金運用事務や税理士法人での業務補助に3年以上携わった人など。申し込みはインターネットサイトで、締め切りは8月5日。



