人生の最期に、怒りや焦り、妬みといったネガティブな感情を上手に手放して穏やかに逝く人がいる一方で、最後の最後まで手放せず苦しみながら亡くなっていく人がいる。緩和ケア医として2000人を超える患者を看取ってきた萬田緑平氏(「緩和ケア 萬田診療所」院長)は、その分かれ目を長年にわたって観察してきた。
「死にたくない率」の差が生死を分ける
萬田氏は、死を前にして穏やかでいられる人とそうでない人の差について、「死にたくない率」の違いではないかと考察する。もちろん誰もが死にたくないものだが、「絶対に死にたくない、100%死にたくない」と生にしがみつく人と、「しょうがない」と死を受け入れられる人では、最期の迎え方が大きく異なるという。この差は、死を目前にしたときに極めて大きな違いとして現れると萬田氏は指摘する。
「しょうがない」の力がもたらす穏やかな最期
萬田氏によれば、死を穏やかに迎えられる人々には共通して、「しょうがない」という受け入れの姿勢がある。これは単なる諦めではなく、人生の限界を認識した上での自然な受容である。こうした姿勢は、怒りや妬みといった負の感情を小さくし、結果として周囲への配慮や感謝の気持ちを引き出す。堂々とした旅立ちは、残された家族への最高の贈り物にもなるという。
人間は誰でも限界まで頑張って生きている
萬田氏は、「人間は誰でも限界まで頑張って生きている」と語る。終末期の患者たちは、それぞれの人生で精一杯努力してきた。その事実を認めることで、死を受け入れる心の準備が整う。また、「自分は死なない」と勘違いしている人ほど、死の直前になって動揺しやすいと警告する。
「健康で長生き」より「いつ死んでもいい人生」を
萬田氏は、「健康で長生き」を目指すよりも、「いつ死んでもいい人生」を送ることの重要性を強調する。死を意識することで、日々の生活に対する感謝や満足感が高まり、結果的に穏やかな最期につながる。緩和ケアの現場で見てきた多くの事例から、死を見つめることが逆説的に豊かな生をもたらすと結論づけている。
本稿は、『プレジデント』2026年7月31日号に掲載された記事を基に構成された。



