余命ではなく、生きられた日数を数える――。海南病院(愛知県弥富市)で緩和ケア医として働きながら、自身も希少がんを患う木曽岬町の大橋洋平さん(62)が「足し算命」の考え方を提唱し、各地で講演を行っている。6~8月には、菰野町内の5地区で講演を実施。抗がん剤治療の副作用と闘いながら、がん患者らに勇気を与えている。
「足し算命」とは
「余命は、1日生きたらその分減っていくカウントダウンでうれしくない。だったら今に目を向けて、生きた日数を足していこう」。8月19日、6月から始めた「菰野5大ツアー」の最終日。同町の千種地区コミュニティセンターに集まった高齢者ら約50人が「足し算命」の考え方にうなずいていた。
講演を聞いた同町の瀬川勝利さん(86)は約20年前に胃がんを患い、胃を全摘した経験を持つ。「心の中は苦しいはずだが、明るく生きようとしている姿が心にしみた。話を聞いて元気を分けてもらった」と話した。
闘病と気づき
大橋さんは2018年6月、希少がんの消化管間質腫瘍(GIST)が見つかり、30センチの傷痕が残る手術を受けた。手術後も「転移を防ぎたい」という一心で抗がん剤治療に耐え、1食あたりスプーン1杯の米粒しか口にできない日々が続いた。しかし、19年4月、CT検査でがんの転移が判明。「抗がん剤も手術も意味がなかった」と絶望した。
主治医に余命を尋ねても「分からない」と返され、ふとひらめいたのが「足し算命」の考え方だった。転移が分かった日を「1日目」と数え、今日まで生きてこられた日数を積み上げていく。「思考を切り替えたことで、生きることが楽になった」
自立と自律、今後の活動
大橋さん自身は、重い病気を抱える患者や家族に寄り添い、心身の苦痛を和らげる「緩和ケア」に20年以上携わってきたベテラン医師だが、自らがん患者になって初めて気づいたこともあるという。
講演で強調するのが「自立」と「自律」の違いだ。病気によって心身が弱ることで、自分の力だけで生活する「自立」は難しくなる一方、人に頼ることを含めて自分で物事を決める「自律」は維持できると訴える。
また、講演を行うのは自分自身のためでもあるという。聞き手が熱心にうなずいている姿を見ると、「みんなに必要とされ、役割を与えられたと実感できる」と語る。「人との出会いは抗がん剤にも劣らないくらい、がん細胞を抑えてくれている気がする」とほほ笑む大橋さん。今後も依頼があれば、闘病経験を語っていくつもりだ。



