リハビリテーション科医の安保雅博氏は、転倒による高齢者の死亡者数が交通事故の約3倍に上ると警鐘を鳴らす。同氏によれば、転倒は単なる「運の悪さ」ではなく、老化による筋肉やバランス機能の低下が原因であり、適切な対策を取ることで予防可能だという。安保氏は著書『歩幅を見れば、寿命がわかる 「死ぬまで歩ける体」のつくり方』(アスコム)で、自覚なき老いの進行を見極めるための簡単なチェックテストを紹介している。
無自覚のまま進行する「転びやすい体」
筋肉は加齢とともに均等に減るわけではなく、特に歩行や立位、姿勢保持に使われる筋肉が減少しやすい。この変化は特別な病気がなくても起こる自然な現象だ。安保氏によると、老化の最初の兆候は肩に現れるという。肩から始まった老いは徐々に全身に広がり、姿勢の崩れ、筋肉の硬化、筋力低下、関節可動域の減少、重心バランスの不安定化を引き起こす。
問題は、これらの変化の多くが痛みを伴わずに進行する点だ。本人が気づかないうちに体は転びやすい状態へと近づき、ある日、小さな段差やいつもの道、少し急いだだけの一歩で転倒が発生する。
転倒予備軍のサインと自己チェックテスト
安保氏は、以下の状態に該当する場合、転倒リスクが高まっていると警告する。
- 腕を上げるのがきつい
- つま先立ちでふらつく
- 頭、肩、お尻、かかとが壁につけづらい(離れてしまう)
- 両腕を壁に沿って下ろすとき、腕が壁から離れてしまう
- 歩き始めるとき重心が安定しない
- 動きがぎこちなく、うまく体を動かせない
- 一つひとつの動きで「ウーッ」「イテテテ」など声が出てしまう
これらのサインは、老化が進行し転びやすくなっている体からのメッセージだ。しかし、できなかったからといって落ち込む必要はなく、むしろ「今気づけた」ことが転倒防止の第一歩だと安保氏は強調する。同氏は、特別な道具を必要としない簡易チェックテストを自宅で行うことを推奨している。
転倒の危険場所と予防策
転倒は道路や病院だけでなく、自宅内でも頻繁に発生する。特に注意が必要なのは、寝室で立ち上がる瞬間、床に置いてある物、廊下、トイレ、浴室、そして玄関だ。玄関はバランスを崩しやすい場所であり、段差や滑りやすい素材がリスクを高める。
安保氏は、転倒予防のために「歩幅を広げる」「つま先を上げて歩く」「体幹を鍛える」などの具体的な対策を提案している。また、日頃から歩行時の歩幅を意識することで、寿命や健康状態を推測できるとも述べている。
転倒がもたらす深刻な結果
転倒による骨折や頭部外傷は、要介護や寝たきりの直接的な原因となる。最悪の場合、命を落とすこともある。安保氏は「転んで亡くなる人の数は交通事故の約3倍」と指摘し、予防の重要性を訴えている。同氏のチェックテストを定期的に行い、自身の体の状態を把握することが、健康寿命を延ばす鍵となる。



