結核は過去の病ではない。世界ではいまも年間120万人超が命を落としている。HIVと多剤耐性結核の危機に向き合い、国外で人材育成にも携わってきたニューヨーク・メディカル・カレッジのニール・W・シュルーガー医師に聞いた。
現在進行形の脅威
「過去の病気」と思われがちな結核(tuberculosis TBと略される)は、今もなお流行中だ。WHO(世界保健機関)の推計では、2024年には1070万人が新たに罹患し、123万人が亡くなった。単一の病原体による死因としては世界で最も多い。
実は日本も新規結核患者数が10万人あたり10人以下の「低蔓延(まんえん)国」になったのは21年のことだ。BCGワクチンの効果は、主に乳幼児の重い結核を防ぐものであり、その持続期間は一般的に「10~15年」。
貧困が視点を形作った
シュルーガー医師の結核分野のキャリアが始まったのは、1990年代初めのニューヨークの病院だった。当時は深刻な結核の流行に直面し、多くはHIVとも関連し、貧困や過密な住環境など「社会的な要因」も重なっていた。
次々と運ばれてくる患者を診て、彼らが抱える大きな問題の一つが「貧しいこと」だと気づかされた。豊かな国にさえ、これほど貧しい人々がいるなら、世界にはどれほど大勢いるのか。この体験が彼の視点を形作った。
まだ欠けている「道具」
人類は結核との闘いで多くの「道具」を獲得してきた。現在、世界の結核の少なくとも95%は薬で効果的に治療できる。診断技術も進歩し、分子診断システム「ジーンエキスパート」は数時間で正確に結核を診断する。
複数の薬剤を組み合わせた「BPaL/BPaLM療法」は、従来18~24カ月かかった多剤耐性結核の治療を約6カ月に短縮した画期的な進歩だ。
逆に欠けている道具もある。「大人に対する効果的なワクチン」だ。BCGは幼い子どもの重症化を防ぐが、大人への効果は限られている。次世代ワクチン「M72」が最終の臨床試験に進んでおり、大きな期待を寄せている。
これらの道具があるのに、毎年100万人が結核で死亡している現状がある。



