作家で生活史研究家の阿古真理氏が、約1年半にわたる連載「産むも 産まぬも」を総括した。子どもを持たない生き方を選んだ男女への取材では、「産まなくてよかった」と堂々と語ったのは、同じテーマで著書もあるエッセイストの酒井順子氏だけで、他のインタビュー対象者はプレッシャーや子どもがいない不安を強く抱えていたという。
「子育てしやすい」環境が排他的に
育児サポートに力を入れる自治体や、子育てに便利なニュータウンは、子どもがいない人や一人の時間を持ちたい親に「居場所がない」と感じさせがちだ。阿古氏は、子どもがいない大人を見ずに育つ子どもたちが「大人になれば誰でも子を持つ」と思い込むことや、大人単独の空間と子連れの空間が分断されていることが、互いを相容れない存在にし、柔軟な生き方を難しくしていると分析する。
経済・社会の変化と「普通」への執着
高度経済成長期の皆婚社会の名残で、貧困や仕事との両立困難から子どもを持てない・持たない人の存在が忘れられがちだと指摘。新自由主義やグローバリズム、IT化による生活の煩雑さがストレスを増大させ、多様性を認める動きに戸惑う人も増えている。こうした変化への適応困難が、「戸籍上の男女の夫婦が子どもを育てる」という「普通」を切実に求める心情を生み出している可能性がある。
性教育の不足と若者の意識
性教育が十分に行われてこなかった影響も大きい。連載では中絶問題に取り組む大橋由香子氏や性教育問題に取り組む染矢明日香氏への取材を通じ、自己肯定感やパートナーシップの不全が少子化の遠因になっている実情を伝えた。
ロート製薬が2025年3月に発表した『妊活白書2025』によると、18~29歳の子どもがいない未婚男女400人のうち、男女とも6割以上が「将来、子どもが欲しくない」と回答。経済的不安やキャリア形成への懸念から、初めて女性のほうが望まない割合が高くなった。
求められる「自分を受け入れてくれる社会」
阿古氏は、政府の少子化対策が「子どもを産み育てるサポート」に留まる限り大きな改善は望めず、必要なのは「子どもを産んでいようがいまいが、自分を受け入れてくれる社会」だと結論づける。「人々の生きづらさこそが少子化の原因」であり、「資本の論理」以外の価値基準を持てるかが問われている。



