『手芸とエンパワメント』(山崎明子著、晶文社・2200円)は、家庭内の女性の仕事とされ、美術とも工芸とも見なされることのなかった「手芸」を、ジェンダーの視点から社会的構造の問題として研究してきた著者が、従来の客観的な研究から一歩踏み込み、「手芸」を語る困難さやそれへの愛を率直につづった書である。
手芸をめぐる言説の少なさとジェンダー問題
「手芸」はいつも生活のなかにあり、土地ごとの技術を受け継ぎながらさまざまな趣向を凝らして、人々の生命を守りつつ日々を彩ってきた。にもかかわらず、「手芸」を語る言説は、技法書を除くととても少ない。
評者(能勢陽子・東京オペラシティアートギャラリーシニアキュレーター)は、美術館のキュレーターとして日々美術作品を観るなかで、近年、主に女性作家の手による編み物や刺繡、パッチワーク、キルトなどの技法を用いたものにひかれるようになった。それらの作品は、長い美術の歴史のなかで男性を中心に構築された永続性や堅牢性、重厚さといった規範にあらがい、またそこから逃れるもののように思えたという。
手芸的技法の作品と著者の研究
手芸的技法を用いた作品は、ささやかながら開放的、かつ挑戦的で不遜であった。そうした作品に網の目のようにつながる歴史的、文化的なジェンダーの問題を、著者のこれまでの研究や著作が解きほぐしてくれたのだ。
本書では、自他ともに「女子力」と結び付けやすい「手芸」は、ジェンダー論として肯定的に扱いにくいと指摘する。そこには構造的な問題だけでなく、手芸をする人自身の創作の楽しさや、ともに縫ったり編んだりすることの喜びもあるからである。
主体的な手芸の実践を鼓舞
著者は「手芸」を規定する社会的な枠組みを明らかにしつつ、それに縛られたり、誰にも価値づけられたりすることなく、主体的に「手芸」を行うことを鼓舞する。「手芸」は、何かの用に供するだけでなく、家族や恋人、友人への贈り物として温かな気持ちを伝え、また自らのケアにもつながるものである。
本書は、何もかもが既製品で手に入るようになった時代に、経済活動に組み込まれないがゆえの手作りの創造性を称揚する、「手芸」を寿(ことほ)ぐ書なのである。