2026年6月、皇族数確保策をめぐる「立法府の総意」が与野党の全体会議で取りまとめられた。皇室史に詳しい宗教学者の島田裕巳氏は、この議論において血統による皇位継承だけが問題にされ、肝心な点についてはまったく議論されていないと指摘する。
「了とする」が示す取りまとめの強引さ
6月10日、皇室の将来を左右する議論が一つの節目を迎えた。与党の自民党は、麻生太郎副総裁を会長とする「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」を9日に開催し、8日の与野党代表者協議で示された「立法府の総意」案について全会一致で了承した。麻生副総裁は「今国会において皇室典範の改正を成し遂げたい」と改めて意欲を見せた(6月9日付産経新聞)。
取りまとめ案で注目されたのは、結婚後の女性皇族が身分を保持する案と、旧宮家の男子を養子として皇室に迎える案が、それまでの「基本的に妥当」から「了とする」に変わった点である。「基本的に妥当」では議論の余地があるが、「了とする」は内容を受け入れる強い意味合いを持つ。しかし、女性皇族と結婚した配偶者や子どもを皇族とするかどうかには触れられておらず、細かな合意には至っていない。それでも「了とする」表現を用いた背景には、今国会での皇室典範改正を実現したい強い意志が示されており、自民党が議席数を背景に強引に進めようとしているように見える。
衆院議長発言の背後にある“暗黙の了解”
代表者協議後の記者会見で、自民党から党籍を離脱している森英介衆院議長が、養子には皇位継承の資格を与えないが、その子どもに「男の子が生まれれば皇位継承権を持つ」と発言し、野党から激しく反発された(6月9日付朝日新聞)。全体会議ではそのような内容は示されていなかったため、森議長は「将来の検討を先取りしたり、縛ったりするような趣旨ではない」と弁明せざるを得なかった(6月9日付読売新聞)。
森議長の発言内容は目新しいものではないが、全会一致で皇室典範改正にこぎつけられるかはまだ決着していない。国民の間では、議論が進むほど「女性・女系天皇」を認める方向での改正を求める声が高まっている。国会の議論が男系継承にこだわることへの疑問も強まっている。
まったく議論されない肝心な問い
島田氏は、皇位継承の議論で最も重要なのは、天皇にふさわしい資質を持つ人物が継承することだと指摘する。しかし、現在の議論では血統だけが重視され、資質の問題が無視されている。特に、愛子さま(敬宮愛子内親王)と悠仁さま(悠仁親王)の間には決定的な違いがある。愛子さまは学習院大学を卒業し、国際的な視野を持ち、公務にも熱心に取り組んでいる。一方、悠仁さまはまだ若く、将来の資質については未知数である。にもかかわらず、政権は悠仁さまの資質についての議論を避け、男系男子継承に固執している。
「生前退位」で明るみに出た政権の意向
2019年の生前退位の際、政府は「天皇の健康状態」を理由に退位を認めたが、その裏には「女性天皇」を避けたいという意向があったとされる。今回の議論でも、麻生副総裁を中心とする保守派は、愛子さまの即位を阻止し、悠仁さまへの継承を確実にしようとしている。島田氏は、麻生氏が「愛子天皇」を心底怖れていると指摘する。それは、愛子さまが即位すれば、男系男子の伝統が崩れるだけでなく、皇室の在り方そのものが変わる可能性があるからだ。
“何もしない”天皇を望む保守派の論理
保守派の一部は、天皇は政治に関与せず、象徴としての役割に徹するべきだと考えている。しかし、島田氏は、現代の天皇には国民との交流や国際親善など、積極的な役割が求められていると指摘する。愛子さまはそのような役割を果たす能力を持っているが、悠仁さまについては未知数である。それでもなお、保守派は男系男子にこだわることで、皇室の伝統を守ろうとしている。
現政権の本音が見えた「昭和100年記念式典」
2026年に予定されている「昭和100年記念式典」では、政府が過去の戦争を美化するような内容が含まれているとの懸念がある。島田氏は、この式典を通じて、現政権が皇室を政治利用しようとしていると批判する。麻生副総裁をはじめとする政治家たちは、皇室を自分たちの政治的目的のために利用しているにすぎない。
国民の間では、愛子さまの即位を支持する声が多数を占めるようになっている。しかし、政権はその声を無視し、男系男子継承に固執している。このままでは、皇室の将来はますます不透明になり、国民の理解を得ることは難しいだろう。



