国の依存症対策予算は年10億円程度にとどまっている。一方、大阪府・市は2030年秋のカジノを中核とした統合型リゾート(IR)開業に向け、事業者から得る収入から年14億円を依存症対策に支出する計画だ。
大阪IR開業に向けた依存症対策
大阪府・市がIRを誘致する上でモデルとしたのはシンガポールだ。吉村洋文知事は大阪市長だった10年前に現地のIRを視察し、「近いのはシンガポール型。全世代が楽しめ、依存症も減らしていく」と述べてきた。
シンガポールでは2010年に2か所のIRが開業。その5年前、国は独立諮問機関「国家問題ギャンブル評議会」を新設し、集中的に依存症対策に取り組んだ。個人IDを使い、問題のあるギャンブラーをすべてのギャンブルから遮断する「排除システム」を構築。ギャンブル関連広告を厳しく規制する一方、啓発キャンペーンを展開した。その結果、2005年に2%だった「病的ギャンブラー」は、IR開業後の2014年には1%を大きく下回った。
シンガポールのカジノ対策に関する論文(2012年)によると、規制の枠組み構築に開業当時のレートで約13億円、運営費に年約26億円の予算が組まれたという。
政府が2023年に認定した大阪のIR整備計画では、府・市は事業者から得る収入(年1060億円)のうち年14億円を依存症対策に支出する。これが2029年度中に整備する「大阪依存症対策センター(仮称)」の運営の原資となる。府・市は今年度中に、センターの組織体制や機能を盛り込んだ基本計画を策定する。
当事者から相談を受ける医師のほか、ギャンブル依存症の多重債務問題に対応する法律の専門家が常駐するかどうかなど、府・市は予算をにらみながら判断することになる。
吉村知事は6月、記者団に14億円の予算が妥当かと問われ、「費用ありきではなく、必要な対策をしっかり取っていく」と語った。
これとは別に、事業者は独自に年9億円をカジノ施設内でのギャンブル依存症対策に使う。日本人の入場者に対し、マイナンバーカードによる本人確認や、「7日間で3回まで」「28日間で10回まで」という入場制限を設ける方針で、システムの運用などに充てる。
世界の依存症対策と日本の現状
オンラインギャンブルの拡大などを背景に、依存症問題は世界で共通の課題となっている。英国は2023年4月、オンラインカジノやスポーツ賭博など、あらゆる事業者から利益の一部(最大1.1%)を徴収して依存症対策に充てる取り組みを始めた。初年度の徴収額は約1.2億ポンド(約260億円)に上り、治療に5割、予防に3割、研究に2割が配分されるという。
一方、日本では国の取り組みは限られている。厚生労働省の依存症対策に関する予算は、アルコールや薬物と合わせて年10億円前後で、過去5年はほぼ横ばいだ。多くは自治体が整備する相談窓口などへの補助金で、啓発にかける予算は5000万円程度にとどまる。
2018年にギャンブル等依存症対策基本法が成立し、厚労省とは別に、内閣官房に依存症対策の事務局が設けられた。しかし、各省庁の取り組みをまとめる事務局機能がメインで、予算は2000万円弱という。
専門家「国の予算では足りない」
国内外のギャンブル事情に詳しい静岡大の鳥畑与一名誉教授(金融論)は、「ギャンブル依存症は社会を巻き込む病気で、借金を重ねた場合の家族への影響や犯罪の増加など、大きな社会的コストが発生する。現在の国の予算では足りないのではないか。依存症対策を自治体任せにせず、日本全体の問題として、国がしっかり取り組む必要がある」と指摘する。



