米国は今年、建国から250年を迎えた。中国の台頭が著しい中、すでに国力はピークを過ぎたとの指摘もある。トランプ米政権下でソフトパワーの著しい低下は否めないが、米国は今後も西側陣営の盟主として指導力を発揮し続けるのか。米国内で深刻化する分断は癒えるのか。外務省出身で安全保障の専門家である兼原信克・笹川平和財団常務理事と、リベラル派から右派まで幅広い人脈を持つ渡辺靖・慶応大教授が、読売新聞東京本社で対談した。
世界が大きく、米国は小さく
兼原氏は、第2次大戦後、工業国の中で唯一無傷で残った米国が圧倒的な存在となったと指摘。その後のグローバル・サウスの台頭で存在感は相対的に縮小したが、今も最大の経済大国であり、デジタル産業では一人勝ちだとした。一方、世界のGDPに占める米国の割合は約25%に縮小し、G7の他の6カ国の合計も約20%だという。
渡辺氏は、成長センターがアジアに移る中、米国が中東に足をとられ、アジアにシフトできていないと懸念。研究機関への圧力や移民規制強化が長期的にハードパワーを傷つけると述べた。また、米国が掲げてきた価値観がダブルスタンダードに見えがちで、権威主義国のナラティブに説得力を与えていると指摘した。
ドンロー主義は常態への回帰
トランプ大統領の「ドンロー主義」について、渡辺氏はモンロー主義を「孤立主義」と訳すのは誤りだとし、相互不干渉と自国第一主義が外交の基本で、今はその先祖返りだと説明。中南米での中国の影響力排除が原動力だと述べた。兼原氏も、米国は伝統的に欧州には不介入だがアジアには積極介入主義だったと同意した。
対中大戦略について兼原氏は、イランやベネズエラ絡みで「対中大戦略があるとは思えない」とし、自らの影響圏から中国を締め出す狙いだろうと分析。トランプ氏のグリーンランドへの関心も中国を念頭に置いたものだと述べた。
中国は覇権国になり得るか
中国が「パクス・シノワール」を築けるかについて、渡辺氏はローマ帝国を例に、覇権には軍事力・経済力に加えソフトパワーが必要だと指摘。中国に移住したいという憧れや中国文化へのブームはないとし、中国には「惹きつける力」がないと述べた。ただ、米国のオウンゴールが続けば、相対的に中国のプレゼンスが高まると警告した。
兼原氏は、実態を見れば米国が依然として世界で一番影響力のある国であり、軍事・経済・道徳的思想面で中国は米国に勝てないと断言。トランプ氏のライバルは習近平氏一人で、中東での軍事力行使も中国に力を誇示する狙いがあったが、習氏は圧力に硬化するだけだと述べた。
米国の分断は続く
米国の深刻な分断について、渡辺氏は自由貿易による製造業の空洞化と格差拡大が反エリート主義につながったと説明。コロナ禍でも国がまとまれなかったことを挙げ、「楽観視していない」と述べた。AIの進化が分断を加速する可能性にも言及した。
兼原氏は、バイデン前政権の巨額予算でインフレが加速し、「ひょうたん型」社会になったと指摘。超富裕層のトランプ氏を労働者が支持する「ゆがんだ状態」があるとし、対イラン戦争で原油価格が上がれば、中間選挙を控えたトランプ氏の状況は厳しくなると予測した。
渡辺氏は「市場と支持率がトランプ氏の行動の歯止めとなる」とし、自由な選挙と市場メカニズムが最終的に抑止すると述べた。兼原氏も、トランプ氏は市場の指標に敏感で、最高裁判事も終身制を背景に距離を取り始めていると分析した。
信頼に足る盟主?
米国が西側の盟主として信頼できるかについて、兼原氏は米国憲法の価値観を国民が信じているとし、アフガニスタンの民主化を主導した例を挙げ、「強烈な使命感が米国を米国たらしめている」と述べた。渡辺氏も、一般市民レベルでは善良さが残っているが、トランプ氏に同調する人が多いことに「がっかりしている」と語った。
日本との付き合い方については、兼原氏は日米関係が輸出先から投資先に変質したと指摘。G7が結束し、グローバル・サウスを取り込めば世界は何とかなるとし、リーダーは米国から出てくるべきだと述べた。渡辺氏は、日本は欧州と違い、唯一の同盟国に対して「知恵を絞った対応が必要だ」と強調した。
兼原氏は「日本にとって米国から離れる選択肢はない」と断言。「徳川幕府にも名君と犬公方がいたように、困った大統領が出ても仕方ない。宗家に弓を引くゆとりはない」と述べた。



