経済の低迷や国民・エリート層の不安が高まる中でも、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にはウクライナ侵攻を終わらせるための交渉に応じる準備ができていない──。プーチン政権下で2000年から2004年まで首相を務めたミハイル・カシヤノフ氏(68)が3日、パリでAFPのインタビューに応じ、こう語った。
過ちを認められないプーチン氏
カシヤノフ氏は、プーチン氏が2022年に始まった侵攻が誤った判断だったと気づいている一方で、一度決めた方針は曲げず継続すると決めていると指摘。「自ら犯した過ちを認めることができないのだ。ウクライナは脆弱だとする治安機関からの報告を鵜呑みにしたのだろう」との見方を示した。
また、来年中に戦争が終わるとは思えないとし、米イラン対立に伴う原油価格の高騰や、クレムリンへの対応をめぐる米欧諸国間の意見対立がプーチン氏を勢いづかせていると述べた。「プーチン氏はもちろん高笑いしている」とし、「一切の譲歩をすることなく戦争を継続できると明確に信じている。そして、ウクライナに対する消耗戦に勝利しつつあると確信しているのだろう」と語った。
冬のウクライナへの警告
さらに、これから訪れる冬はウクライナにとって特に過酷なものになりかねないと警告。西側諸国に対し、結束を固めてクレムリンに「心理的圧力をかける」とともに、激しさを増すロシアによる民間インフラへの攻撃を防ぐため、パトリオットミサイル防衛システムを至急ウクライナ政府に供給するよう求めた。
7日に74歳の誕生日を迎えるKGB出身のプーチン氏は、ロシア国民が自国の戦争を支持していると主張する。先月の選挙で与党が記録的な圧倒的多数を獲得したことを、軍事行動への支持の表れだとした。しかし、専門家らからは選挙そのものが厳重に統制されていたとの指摘も出ている。
「事実上の全体主義国家」
2022年にロシアを脱出したカシヤノフ氏は、ラトビアの首都リガで亡命生活を送っている。ロシア当局は2023年、同氏を「外国のエージェント(代理人)」に指定した。プーチン政権を批判する同氏は、ロシアの指導機構・エリート層の一部と現在も連絡を取り合っていると明かし、「支配層には恐怖が渦巻いている。誰もが戦争の終結を望んでいる。圧倒的多数がそうだ」と語った。
「違いはどのような形での終結を望んでいるかだ。勝利による終結を望む者もいれば、プーチン氏の敗北による終結を望む者もおり、単に結果に関わらず終わってほしいと願う者もいる」と述べた。
一方、一般のロシア市民の間では、死傷する兵士が増えていることや食料価格の高騰にもかかわらず「反政府運動の兆候は見られない」とし、「ロシアの人々は過去30年にわたる高インフレで耐えることに慣れてしまった」と指摘。ただし、新たに大規模な軍事動員が実施された場合には、街頭デモの引き金となる可能性があると付け加えた。
反プーチン派の亡命者団体がパリで主催した集会の合間に取材に応じたカシヤノフ氏は、ロシアがここ数年で「事実上の全体主義国家」になったと指摘。「ロシア社会には無力感や不信感、厳しい緊張感が漂っている」とし、「負の感情が互いに高まる中で、人々は自身の家族の中に閉じこもっている」と語った。
プーチン氏により解任された後、カシヤノフ氏は野党勢力に加わり、クレムリンの最も辛辣な批判者の一人となった。侵攻開始とその長期化は同氏にとっても衝撃で、2022年には戦争が約2年続く可能性があるとAFPに述べていた。
計算高いシニシスト
プーチン氏が1日、飛び地カリーニングラード州が攻撃された場合「保有するあらゆる兵器」の使用を検討すると述べたことについて、カシヤノフ氏は西側諸国がプーチン氏の武力による脅しに威圧されるべきではないと強調した。「西側諸国や欧州の最大の過ちは、プーチン氏を恐れすぎていることだ。彼は見かけほど強くはない」「プーチン氏は多くの欧州人以上に核のボタンを恐れている」と、満員の会場の聴衆に向けて語り掛けた。
カシヤノフ氏は、プーチン氏が海外に対して自身を「サイコパス」だと信じ込ませたがっているが、実際には単に「極めて計算高いシニシスト」に過ぎないとし、「そして彼はゲームの賭け金を吊り上げているのだ」と指摘した。また「ハイブリッド攻撃」を次々に仕掛けて西側を挑発し、対抗措置をとらせて、それを自らに有利な形で利用しようとしているとも語った。「彼は揺さぶりをかけてくる」とし、「彼が理解する唯一の行動様式は、KGB学校で学んだものだけだ。彼自身が私にそう語っていた」と明かした。
しかし、カシヤノフ氏はプーチン氏が欧州との全面戦争を準備しているとは信じていないと述べ、「プーチンが望んでいるのはリスペクト(敬意)だ。全欧州にそれを力ずくで認めさせたいのだ」と語った。