ニューヨークの高級すし店で「おまかせ」の価格が高騰し、1人あたり20万円に迫る時代を迎えている。2026年3月、シェフの高山雅氏が手掛ける「Masa」では1席当たり1200ドル(約19万円)に引き上げられた。この料金には飲み物やチップは含まれておらず、実際の支払いはさらに高額になる。
高級すし店の価格高騰が加速
5月中旬にロッテ・ニューヨーク・パレス内にオープンした「Mitani New York」は、700ドルからの料金設定を発表。ペアリングのオプションを追加すると1500ドルと2倍以上になる。米国での外食費用は2020年以降で約3割上昇しており、特に「おまかせ」の値上がりが顕著だ。
Masaの料金は2019年終盤には約600ドルだったが、約6年で2倍に跳ね上がった。アッパーイーストサイドの「Sushi Noz」も2020年に395ドルだったが、現在は550ドルと約40%上昇している。こうした価格設定に多くの客が衝撃を受けるのは当然だろう。
価格に見合う価値とは
2時間弱で終わることも多い食事が、なぜアップルの新しいMacBook Airより高額なのか。近隣の高級店と見分けがつきにくい空間で、小さな魚の切り身が提供される体験を画一的と感じる人も多い。しかし、筆者のように24年以上にわたって高級すしを食べ、「鮨さいとう」や「日本橋蛎殻町すぎた」など東京の名店を経験してきた者にとって、おまかせには価格に見合う価値がある。
数百回に及ぶおまかせ体験を通じて、筆者は微妙な違いを認識し始めた。例えば、包丁を何度も入れる角度によって、イカの食感がゴムのような弾力性からシルクの滑らかさへと変化する。温度管理や昆布締めなどの緻密な熟成技術により、大トロから並外れた食感とうま味を引き出し、夏の桃のようにジューシーな一品に仕上げる。そうした何百もの細かな決断の積み重ねが至高の一貫を生み出す。
手頃な選択肢も存在
もちろん、手頃な選択肢がないわけではない。米国内のすし店は現在1万7000店を超え、2020年から2025年にかけて年平均約4.2%のペースで増加した。おまかせを提供する店も増え、60ドル前後で握りを1時間程度楽しめる店から、簡単に500ドルを超える店まで存在する。
高級すしを一度食べると一般的な店には戻れないとよく言われるが、筆者はそうではないと指摘する。その後も安くておいしいすしを楽しむことは可能だ。ただ、最高級の握りを味わう体験は味覚を根本から変えてしまう。ウニの独特な風味とクリーミーさの魅力が分かるようになるまで、少なくとも5回食べる必要があり、その微妙な味わいに夢中になるまでさらに何度も注文した。
職人と客の関係性を深める距離感
高級すし店では、カウンター越しに職人との距離が近く、その技術やこだわりを間近で感じられる。この距離感が客の理解を深め、一貫の価値をより一層引き立てる。価格高騰は続くが、世界の美食家たちはその価値を認め、納得して支払っているのが現状だ。



